このたまり醤油は、知多半島の中でも武豊(たけとよ)町の周辺で発展した。現在も木桶を使って味噌を仕込む、伝統的な製法を守り続ける蔵元が5軒残っており、黒板塀の続く街並みはノスタルジックな風情がある。
その中の一つ、合名会社伊藤商店にお邪魔したが、味噌蔵に漂う麹の香りは爽やかで本当に心地いい。
伊藤商店は江戸時代の文政年間(1818~1830年)に創業したと言われている。当初は日本酒を製造していたが、明治時代、物流の発展に伴って灘の酒が台頭すると経営が悪化。
同じ醸造技術を用いる豆味噌とたまり醤油に転換した。以来、伝統的な製法を守ってたまり醤油を製造している。
伝統製法で作る「伊藤商店」
その製法とは、まず蒸した大豆を潰して丸めて味噌玉を作り、麹菌を振りかけ、25度から30度の室(むろ)で3日間寝かせる。ここで麹菌を内部まで繁殖させることで、納豆菌などに負けない強い麹になるという。
その後、味噌玉と塩水を混ぜ、巨大な杉の木桶に味噌玉を隙間なく詰め込み、布を敷き重石の石を積み上げていく。
そして、3年間以上寝かせた豆味噌を布の袋に薄く敷き詰め、「笑点」の座布団のように積み上げた上で圧搾する。そうして搾り取られた漆黒のひとしずくがたまり醤油である。
伊藤商店の蔵には巨大な木桶が50個ほど並んでいる。どれも年季が入っているが、今なお現役だ。「少なくとも100年以上前から使っていると聞いています」とは伊藤商店の伊藤未来さんの弁。
この木桶にはこの蔵の醸造菌が住み着いており、これが伊藤商店の味を決めている。丁寧に使い込んでいるが、壊れてしまえば同じ味は出せない。
なお、桶と樽の違いは蓋があるかどうか。それがどうしたという話だが、伊藤さんに説明を受けて妙に納得してしまった。
伊藤商店を訪問して以来、同社の看板商品である「傳右衛門」を愛用しているが、刺身に肉じゃがに料理の隠し味にと何にでも使える。正直、名古屋の食文化は濃いのと黒いのとで敬遠していた部分があったのだが、粕酢もみりんもたまり醤油も今ではよく使っている。その魅力を頭と舌で理解したからだろう。

