福井・越前市にある創業240年の老舗餅店「四季の餅あめこ」。ニューヨーク出身の母を持つ13代目・渡辺淳ダニエルさんが、コロナ禍を機に家業を継承。SNSマーケティングや全国の百貨店への展開といった新たな戦略で、伝統ある店の経営に挑戦している。
ニューヨークに生まれ日米を行き来し育った13代目
越前市役所から徒歩2分の場所にある1782年創業、県内で最も古い餅店とされる「四季の餅あめこ」。一歩、店内に足を踏み入れると、シンプルでモダンな空間が広がっている。
13代目の渡辺淳ダニエルさん(31)は、ニューヨーク出身の母と、12代目の父・岳史さんのもと、ニューヨークで生まれ日米を行き来して育った。東京の大学に進学後、就職。
越前市に戻ったきっかけはコロナ禍だった。「新しいチャレンジをしたい」と父の故郷・福井へ戻ることを決意。アジアや日本各地で餅菓子に触れた後、2024年に父から店の経営を受け継いだ。ただ、父はいまも、ダニエルさんをサポートしている。
餅店の朝は早い。午前8時にはもち米が蒸し上がる。蒸したもち米を機械でつくのは、父・岳史さん。約1時間かけ、季節によって水の配合を微妙に調整する作業は、長年の経験と勘が求められる。
つき上がった餅をでダニエルさんが最初に作るのは、大福。小さくちぎった餅にあんこを包み、手早く丸めていく。3種類の大福を次々に仕上げていく。
続いて、この店の看板商品「あべかわ餅」作りにとりかかる。一口大の餅にたっぷりのきな粉をまとわせ、小判型に整える。箱に詰めて黒蜜を添えれば完成だ。
栄養価の高いきな粉とミネラル豊富な黒糖の組み合わせは、夏場の体力回復にもぴったりだという。
午前9時に開店すると、さっそく客が訪れる。東京から初めて来店したという人は「一番の名物と聞いて」あべかわ餅を購入。地元の常連客は「なくてはならない味」と語る。
「一番重要にしていたのはビジネスの展開」客層に変化
店を受け継いだダニエルさんが最も注力したのは、マーケティング戦略だった。
「安価なもの」という餅のイメージを払拭すべく、SNSを駆使した広報に加え、自ら営業活動に奔走した。
その結果、東京や大阪をはじめ、全国約10店舗の百貨店での販売にこぎつけた。
店の変化を父・岳史さんも感じている。「息子が営業に出てSNSも駆使してくれるおかげで、色んな客が来るようになりましたね。私たちはついていけないですから」と苦笑しつつ、息子の取り組みを見守る。
新たな感性で伝統の味を守る
店を継ぐにあたり父と衝突はなかったのか尋ねると、ダニエルさんは「衝突は特にないです。父からは『好きなようにやれ』と常に言われているからこそ、店が成長できているのだと思います」と語る。
父・岳史さんも「前に進もうとすることを評価したい。失敗も成功の糧になると思うので、一切口出しはしないようにしています」と、息子への信頼を語る。

240年守られてきた味に自らの感性を取り入れ、餅のように柔軟に、ダニエルさんは店の魅力を高めたいと意気込む。「アメコの可能性には自信があるので、機会があれば海外にも進めたいですね」

