後継者が見つからず、2022年に一度のれんを下ろした老舗豆腐店が福井・敦賀市にある。しかし、地元から惜しむ声は絶えず「この味がなくなったらもったいない」と先代の甥が手を挙げた。あえて価格競争には挑まず、こだわりの味を客に直接届けようとキッチンカーを導入。“攻め”の営業でファンを増やしている。
後継者不在は全国で50%超
午前6時半。福井・敦賀市の氣比神宮近くに店を構える「林とうふ」の厨房には、ダイズの香りが広がる。
4代目店主の土山良太さん(46)が豆乳の濃度を丁寧に調整していた。「これで全然味が違うものになるから」
看板商品は、ダイズの旨みが濃厚な「きぬとうふ」。外は香ばしく中はなめらかな絹ごし仕立ての揚げ豆腐「きぬあげ」も人気だ。
1937年に創業した「林とうふ」は後継者が見つからず2022年に一度のれんを下ろした。
起業の後継者不足は全国的な問題となっている。帝国データバンクの調べによると、国内企業の後継者不在率は50.1%にのぼり、約半数が後継者がいないということになる。
福井県内ではさらに高く、55.3%と全国平均を上回っている。
林とうふ閉店後も、その味を惜しむ声は絶えなかった。そこで店の復活に手を挙げたのが、先代の甥にあたる土山さんだった。
土山さんは市内で飲食店を経営していたが、豆腐作りの経験はゼロ。それでも「この町で愛してもらった豆腐屋だったので、この技術や味がなくなったらもったいない」という思いが背中を押した。
甥からの申し出を受けた先代の林さんは当初、「本当かな?という気持ちで心配した」と振り返るが「林とうふの名前を消したくない」という土山さんの言葉に背中を押され、承継を歓迎したという。
卸売りからは撤退、「味」と「こだわり」でブランド力を強化
営業再開から2年が経ったいまも、土山さんは先代から技術を学び、アドバイスを受けながら伝統の味を守り続けている。
その一方で、販売戦略は大きく変えた。
約1年前に冷蔵車を導入し、市内の青果市場で毎週土曜日に出張販売を始めたのだ。「店舗だと買いに来られるのは近所の人だけになってしまう。行き届かないところに自分で持って行った方がいいと思って」。
市場を訪れた客からは「元町の店までは遠いからね」「初めて買った。たまたま市場に来ていて、豆腐屋の豆腐が食べたいと思って」と歓迎の声が聞かれた。
「ここの豆腐を食べたらよそでは買えません」と話すファンも。
先代の時代まではスーパーや青果店などでも販売していたが、現在は元町の店舗と出張販売、たまに出店するイベントのみに絞っている。
その理由を土山さんはこう語る。「主婦と直接、顔を合わせてやり取りする感じがいい。食べてもらうまで味の差が分からないし、スーパーではただ高いだけになってしまうから」。
林とうふは濃厚な味にこだわっているため、スーパーに並ぶ一般的な豆腐より価格はやや高めに設定されている。だからこそ土山さんは価格競争には踏み込まず、「味」と「こだわり」を客に直接伝えることでブランド力を高める道を選んだのだ。
「揚げたて、焼きたては格別だから」キッチントレーラーも導入
さらに土山さんが次の一手として用意しているのが、キッチントレーラーだ。車内には蛇口や冷蔵庫、調理台が備わっており、いつでも調理ができる環境が整えられている。
「揚げたて、焼きたては本当に格別なので、僕らからお客さんのところへ行って味を知ってもらいたい」という思いだ。
今後はこのトレーラーを活用し、できたての揚げ豆腐や田楽、夏場には冷奴などをイベント会場で提供することにしている。

先代の林さんは「一度預けたので好きなようにやってもらいたい。今年で創業87年。老舗の名に恥じないような商品を作って頑張ってほしい」とエールを送る。
「昔ながらの豆腐でこの町がもっと元気になれば」と語る土山さん。一度は閉店した店の伝統の技と味を受け継ぎながら、新たな活路を生み出している。

