経営者の高齢化や後継者不足に悩む企業が、第三者を含む後継者を探し引き継ぐ「事業継承。若狭町にある老舗飲食店を事業継承したある夫婦が、3カ月前に福井市内に新たな店をオープンしました。事業継承からわずか5年で新たな挑戦に至った背景を取材しました。
福井市中央卸売市場にある「ふくい鮮いちば」に去年11月にオープンした、ソースかつ丼の専門店「ドライブインやまだ 鮮いちば店」。9時半の営業開始とともに市場で働く人や一般客などが続々と訪れます。
常連客は―
「ボリュームもあるしお値段も安いし、僕は結構ソースカツ丼をいろんな店に食べに行くけど、ここは美味しい」
「朝早くカツ丼食べられる所といったら、やまださんくらい」
実はこの店、若狭町にある老舗飲食店の新店舗。店を任されている西村璃紗さんは「もともとは店主と本店で働いていて、気付いたら毎日のようにカツ丼を食べている中で“毎日でも食べられるカツ丼”をコンセプトに、自分が生まれた嶺北の方でももっと多くの人に食べていただきたいと思った」と話します。
ドライブインやまだは若狭町で50年続く飲食店で、毎朝近くの漁港から仕入れる鮮魚を使ったメニューが売りです。観光客が多く訪れる人気店ですが、特に地元の人たちに愛される看板メニューが、創業当時から変わらない少し甘めのソースが特徴の「カツ丼」です。
店主は夫の西村悠馬さん。5年前に元のオーナーから事業承継し、妻の璃紗さんとともに福井市から若狭町に引っ越して店を引き継ぎました。
当時、西村さんは「50年と長くやっているお店なので、その意思も受け継ぎつつ新しいことも取り入れて、地域に愛されながら県外からも来てもらえるお店にできたら」と話していました。
その後、当時の考えの通り、店の伝統を守りつつ変えたいところは変えながら経営を続けてきました。
引き継いで以降の売り上げは「5年間ずっと右肩上がり」だといいますが、ある悩みも抱えていました。
それは冬場の閑散期です。ドライブインやまだは客の8割が観光客。どうしても冬場に若狭町を訪れる観光客は少ないため、この時期は毎年客が激減します。
「何か打開策を、とずっと考えていた」という西村さんに知り合いから声が掛かったのが、ふくい鮮いちばへの出店でした。
「市場は11月のカニが始まるシーズンからどんどん忙しくなるというのを聞いて、それならもってこいだと思った」といいます。「本当においしいと思っているカツ丼のんで勝ち目がある。カツ丼一本で尖らせて勝負していきたい」と考えました。
「今のところは美味しいと言ってくれる方がたくさんいる」と話す璃紗さん。オープンから3カ月、評判は上々で冬場の閑散期対策にもつながっています。
若狭町の飲食店を経営するようになってからわずか5年で、新たな店を嶺北にオープンするという大きな決断ができたのは、スタートが「事業承継」という形だったからこそだと2人は話します。
「もともと50年の歴史をもらえたというのはすごく大きなこと」だと振り返ります。
「ゼロからスタートしようと思ったらなかなか億劫になって始められないと思う…夢がある方でも。だけど事業承継だと一歩が踏み出しやすい」といまを楽しんでします。
事業承継して5年の間に西村さん夫婦には子供2人が生まれ、家庭環境も変わりました。それでもわずか5年で新たな展開に進めたのは、やはり伝統ある人気店を事業承継できたからこそだと話します。
すでに次のビジョンも描き始めているという西村さん夫婦。選んだ「事業承継」という道を進むと、自分たちも想像していなかった夢が広がっていました。
県事業承継引継ぎ支援センターによると、第三者による事業承継の件数は増えていて、今年度は50件とここ5年で最多となる見込みです。