北陸新幹線の当面の終着駅・敦賀では、夜になるとメインストリートにラーメン屋台が並ぶ。店主の高齢化などで4店舗にまで減少する中、さらに追い打ちをかけたのが食品衛生法の改正。30年以上続く人気店がやむなく閉店を考える中、その窮地を救ったのは、保健所が店主にした、ある提案だった。“敦賀の屋台ラーメン文化を守ろう”という地域の思いを取材した。

夜になると灯るラーメン屋台のあかり
夜になると灯るラーメン屋台のあかり
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食品衛生法の改正で「屋台」での営業継続が困難に

「減ったら足して減ったら足してがんがん炊いていく」夜の営業に向けスープの仕込みに余念がない、権八敏一さん(74)。
  
敦賀市本町の国道8号沿いで30年以上営業している老舗屋台ラーメン「池田屋ごんちゃん」の主人だ。
  
権八さんがつくるラーメンは、醤油ベースに豚骨と鶏ガラをあわせたWスープ。あっさりとした口あたりの中にもしっかりしたコクがあり、市内はもとより遠方からもこの味を求めて客が訪れるほどの人気だ。中には「毎週、仕事終わりに来ている」という人も。
      
常連客たちは「素朴というか…昔ながらの味」「地元の味だと思って堪能している」と話す。

ごんちゃんラーメン
ごんちゃんラーメン

長年、多くの人に愛されるごんちゃんのラーメンだが、実は存続の危機に陥っていた。
   
ごんちゃんの屋台は、キッチンが積まれたトラックの荷台の前に立ち、客席と同じ側に立って調理する独特のスタイル。この調理スタイルが、2021年に改正された食品衛生法に触れたのだ。
   
法改正により、車で飲食店を営業する場合は荷台の中での調理が必要となり、このままの形態では営業継続が困難となったのだ。キッチンカーを導入すれば基準は満たせるものの、数百万円の費用がかかる。74歳の権八さんには、それは現実的ではなかった。
 
ただ、客からは継続を切望する声が寄せられたという。「できなくなるのかって電話かかってくるし、知っている客が来たら、やめるのかって聞かれていた」

客席側で調理するスタイルが改正法に触れ…
客席側で調理するスタイルが改正法に触れ…

“観光名物”でもある屋台ラーメンの継続を行政もバックアップ

長年愛されてきたのは、味はもちろん“屋台のごんちゃんラーメン”に魅力があるから。権八さんは、なんとか今のスタイルで営業が継続できないかと保健所に駆け込んだ。
   
すると、敦賀の屋台ラーメンの文化を絶やすまいと、保健所も営業の継続策を模索。営業許可の形態を「自動車による調理販売」から「露店」での申請に切り替えることを提案してくれたというのだ。
      
権八さんは、その柔軟な対応に心を動かされた。「屋台を継続したいということを保健所の人が分かってくれて、露店商なら何とか(許可を)下ろせるんじゃないかという案を出してくれたんやと思う。継続に向けて保健所が動いてくれたことはありがたい」
  
保健所の指導で、調理場の周りに仕切りを設置し、厨房と客席を分けることで6月末、正式に許可が下りた。

客席との間に仕切りを入れ「露店」スタイルに変更
客席との間に仕切りを入れ「露店」スタイルに変更

70年以上の歴史がある敦賀の屋台ラーメン。全盛期の1960年代には国道沿いに15店舗ほどが並んでいた。ただ近年は、店主の高齢化や新型コロナの影響でその数は4店舗にまで減少してしまった。屋台ラーメンは敦賀の観光名物の一つでもあることから、市も、まちづくり会社と連携した支援策を模索している。
  
営業形態は「露店」に変わったが、これまで見慣れてきた“ごんちゃんのラーメンの屋台トラック”は健在だ。
   
ごんちゃんラーメンのファンは―
「子供らもみんな好きなんで、うれしいです」
「屋台の文化は敦賀にとって重要。残って嬉しい」

笑顔を見せる権八さん
笑顔を見せる権八さん

客の笑顔に支えられ、権八さんは「あとどれだけできるか分からないけど…体が続く限りやりたい。昔からの中華そばを食べてほしい」と背筋を伸ばす。さらには後継者の育成も考えているという。
   
敦賀名物・屋台ラーメンをこれからもずっとー
そんな思いを抱えて、権八さんはきょうも自慢の一杯をふるう。

にぎわうラーメン屋台
にぎわうラーメン屋台
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福井テレビ
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