アメリカ大統領選挙で中国側の本音は
「バイデン氏よりもトランプ大統領の方が望ましい」
これは私がアメリカ大統領選挙について中国当局の関係者などに取材を続ける中で、多くの関係者から直接聞いた意見だ。トランプ政権と対立を深める中国で、意外な反応だった。
主な理由としては、トランプ政権がアメリカ第一主義を明確な方針として、政策を進めてきたことだった。中国当局の関係者からは、「トランプ大統領の方が行動が分かりやすい。バイデン氏よりも打つ手を考えやすい」といった声や、「トランプ政権はアメリカが築いてきた世界のシステムを破壊している。このまま続けばアメリカは弱体化していく。中国にとっては好都合だ」との意見があがった。
この記事の画像(7枚)また、ある関係者はトランプ政権が新型コロナウイルス対策や黒人男性の暴行死亡事件で批判を受けていることを指摘した。
新型コロナウイルスをめぐる情報隠ぺい疑惑や香港に対する国家安全維持法の施行などで世界から批判を受けている中国としては、トランプ政権が続けば、批判の矛先が中国よりもアメリカに向かいやすくなるという思惑もある。
中国側への取材を続ける中で、中国当局のアメリカ大統領選報道に対する指針としてある通知の存在が明らかになってきた。
中国当局がメディアに「中立」指示
「アメリカ大統領選挙はアメリカの内政だ。中国はいずれの立場も取らない」
中国外務省は4日午後の会見でアメリカ大統領選挙に関してこうコメントした。当時は、トランプ、バイデン両候補が大接戦となっており、中国政府としては、どちらの候補者にも肩入れせず静観する姿勢を示した形だ。
実は、中国当局は国内メディアに、報道統制を徹底していた。FNNの取材では、中国当局は10月の国慶節の大型連休後、国営メディアなどに対し、アメリカ大統領選挙に関する報道で、「特定の対象の立場に立つことを避けるように」と指示。トランプ、バイデン両候補を“中立”の立場で取り上げるよう求める通知を出していたことが判明した。
この事実を明らかにした中国当局の関係者は、「トランプ政権が中国が大統領選挙に介入しようとしている、と批判したことを受けた措置だ」と話す。
バイデン氏の当選確実が報じられた後に取材した中国共産党系メディアの関係者も、こうした通知があったことを認めた上で、「最近も当局から大統領選挙の記事では刺激的な見出しをつけないよう言われている」と漏らした。
中国当局が「過敏」とも言える徹底対応を打ち出したのはなぜだろうか。
アメリカ次期政権にどう臨む?
日本時間8日未明、アメリカメディアが一斉にバイデン氏の当選が確実と報道。これを受けて、各国首脳が早速バイデン氏に対して祝意のメッセージを寄せた。
一方、中国外務省は翌9日の会見で、海外メディアから質問されても静観の姿勢を保った。選挙結果は未確定だという認識を示した上で、「アメリカの新政権が中国と歩み寄るよう望む」と述べるにとどめた。
中国側の関係者は、「中国側が態度表明するのはバイデン氏の当選が100%確定してからだ。その時期は分からない」との見方を示す。
トランプ大統領が敗北を認めず、選挙結果をめぐって両陣営の泥仕合が続く中、中国がバイデン氏に当選の祝意を示すこと自体、トランプ陣営からの攻撃材料になりかねないからだ。選挙期間中、両陣営とも競って中国を批判しており、中国がうかつにメッセージを発すれば政争に巻き込まれ、新たな中国叩きを招いてしまう恐れすらある。中国にとって対米関係は最も敏感な二国間関係であり、慎重に慎重を重ねて対応しようという姿勢が伺える。
また、中国側は大統領選挙をきっかけに激化した対立をリセットし、関係改善の糸口を探りたいとも考えている。
一方で、取材の過程で、多くの関係者の一致した見方は、「トランプ、バイデン両氏のどちらが当選しても対中方針は大きく変わらないだろう」というものだった。
バイデン氏はこの間、中国当局による新疆ウイグル自治区での人権抑圧などを非難し、トランプ大統領とは別の観点から対中強硬姿勢を示してきた。大統領選挙が終わってもその路線が急に変わることはない見通しだ。
中国当局の関係者も、「バイデン氏は同盟国や友好国との関係を強化し、静かに中国包囲網の形成に動いていくのではないか」と警戒感を示す。
中国共産党系メディア「環球時報」は9日付で、「中国とアメリカの関係に幻想を抱いてはならない」とする社説を掲載。バイデン氏が大統領になった場合、人権問題でアメリカの対応が今よりも厳しくなる可能性を指摘する一方、「関係改善に対する信念を弱めてはならない」とも訴えた。そして、「中国がアメリカの戦略的挑戦に対処する根本的な方法は絶えず自らを強くすることである」と結論づけた。
アメリカとの対立長期化に備える一方で、関係改善の糸口も探る中国。新たな米中関係の構築に向けて、模索が続いている。
【執筆:FNN北京支局 木村大久】