「チームアメリカが中国共産党の標的にされかねない!」

1月27日、アメリカの下院議員26人が連名でバイデン大統領に対し、北京五輪参加選手たちを保護する対策を求め要望書を提出した。この中で、「選手たちが言論の自由を行使したことを理由に中国政府から処罰されたり、逮捕される危険性が高い」との強い懸念が示された。

アメリカの議員によるこの動きは、北京五輪の組織委員会が1月19日に、「五輪の精神に反した行動や発言、特に中国の法律や規定に違反するものは処罰の対象となる」と表明したことを受けたもので、チームアメリカの安全確保を懸念する声がアメリカ国内で高まっている。

1月27日に米議会下院の超党派の議員が取りまとめた要望書の一部
1月27日に米議会下院の超党派の議員が取りまとめた要望書の一部
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五輪開催直前に米大手メディアと中国大使館がバトル

この中国側の発表にアメリカ大手紙ワシントン・ポストは、
「中国から冬季五輪選手へのメッセージです。黙って滑れ」

“China has a message for Winter Olympic athletes: Shut up and ski”

と題した社説を掲載。

2022年の冬季五輪は中国が最も重要視する習近平政権の三期目の足固めをするためのものだと指摘。「中国をありのままの姿ではなく、共産党が好む形で世界に見せることを選手に強要している」と批判した。

「中国から冬季五輪選手へのメッセージです。黙って滑れ」と題されたワシントン・ポストの社説 1月22日掲載
「中国から冬季五輪選手へのメッセージです。黙って滑れ」と題されたワシントン・ポストの社説 1月22日掲載

この社説に、早速、ワシントンにある中国大使館の劉鵬宇報道官が噛みついた。

ワシントン・ポスト電子版に反論記事を掲載し、「言論の自由の名の下にアスリートを人質に取り、国際オリンピック委員会の規則に反する発言を強要することは、許されない」と強調。「北京冬季オリンピックは大成功を収めるだろう。スポーツを政治利用しようと無駄な風説を流布する者だけが敗者となる」と反発するなど、冬季五輪開幕を前に熱いバトルが繰り広げられた。

ワシントンにある中国大使館の報道官がワシントン・ポストに掲載した「北京冬季五輪の焦点はスポーツ」と題された反論記事 1月30日掲載
ワシントンにある中国大使館の報道官がワシントン・ポストに掲載した「北京冬季五輪の焦点はスポーツ」と題された反論記事 1月30日掲載

 

選手のスマホも監視対象?各国の対応は?

選手たちの政治的な発言に中国政府は神経をとがらせており、各国政府は選手の安全確保のため対応策に乗り出している。アメリカのニュースサイトのAxios(アクシオス)の調べによると、アメリカの五輪組織委員会は選手団に対し「すべての通信、オンライン活動が監視されることを想定するように」と注意喚起。使い捨てのコンピューターと携帯電話を利用するよう奨励しているという。

また、ドイツは韓国サムスン電子と提携し無料でスマートフォンを選手に提供。カナダもスマートフォンとSIMカードを選手に提供する。オランダは選手団に対し、ハッキングの恐れがあるとして、私用の携帯電話とコンピューターを持参しないよう警告している。

しかし、こうした呼びかけも、最終的には、選手個々の判断に委ねられている。アメリカの五輪代表選手の中にはソーシャルメディアで日々の生活を発信、多くのフォロワーを持つ選手も少なくない。スノーボード界の神とも呼ばれ、男子ハーフパイプで3個の金メダルを獲得したショーン・ホワイト選手のツイッターのフォロワーは160万人以上だ。

98万人以上がフォローする動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」では、北京のオリンピック選手村での様子を日々発信している。ホワイト選手は北京に出発する直前の1月上旬、アメリカでチベットの旗を掲げる人権活動家との写真撮影に応じるなど、中国共産党の神経を逆なでしそうな動きを見せている。

また、フィギュアスケート・アイスダンスのエバン・ベイツ選手も去年10月に行われた記者会見で中国の新疆ウイグル自治区における人権問題につい「イスラム教徒に対して中国で起きていることは、とてもひどいことです」と批判的な立場を明確に打ち出している。こうした選手は中国側の監視対象となっている可能性がある。

言論の自由を支持するバイデン政権に策はあるのか?

選手がSNSなどで政治的な発信した場合に、中国政府からどのような対応を受けるのか懸念も広がっている。こうした中1月31日ホワイトハウスで開かれた会見では、もしアメリカ代表選手が中国当局が問題視する発言を行い処罰対象になった場合、バイデン政権はどう対応するのか質問が上がった。これにサキ報道官は「アメリカ政府は選手たちの言論の自由を支持する」と強調したが具体的な対応策には触れなかった。

サキ報道官
サキ報道官

北京冬季オリンピックの開会式は2月4日午後9時(現地時間午後8時)から、北京の国家体育場「鳥の巣」で行われる。選手たちが競技で見せる感動的なドラマを期待する一方で、言論弾圧という不穏な事態が起きないことを願う。

【執筆:FNNワシントン支局長 ダッチャー・藤田水美】

ダッチャー・藤田水美
ダッチャー・藤田水美

フジテレビ報道局。現在、ジョンズ・ホプキンズ大学大学院(SAIS)で客員研究員として、外交・安全保障、台湾危機などについて研究中。FNNワシントン支局前支局長。