北朝鮮問題はメモを見ながら

北朝鮮関連の質問が出ると、バイデン大統領は手元のメモを探り始め、下を向いたまま答え出した。

「ます第一に、えー、彼らがテストしたミサイルは(ここで顔をあげる)国連決議1718に違反しているということだ。それが第一だ。(再びメモに目をやって)我々は同盟国やパートナーの国々と協議を行い、えー、対応を打ち出すだろう。もし彼らが事態をエスカレートするならば(ここで顔をあげる)我々は適宜対応することになる。(またメモを見ながら)しかし私は、えー、外交手段も検討している。えー、それは非核化の結果を見て条件を決めることになるだろう。だから、えー、それが今我々が行っていることだ。同盟国と相談しながら」

手元のメモを淡々と読み続けたバイデン大統領
手元のメモを淡々と読み続けたバイデン大統領
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25日に行われたバイデン大統領初の初の公式記者会見での北朝鮮問題をめぐる発言は、約1分間、手元のメモを見ながらつっかえつっかえ話しただけだった。

しかし、北朝鮮が日本海へ新型ミサイルを二発発射したのはその前日のことだ。ホワイトハウスでは状況分析が行われたはずだ。この記者会見は、バイデン政権の北朝鮮政策を世に問う絶好の機会だったはずだ。

北朝鮮からバイデン政権への挑発

一方の北朝鮮は、21日にも巡航ミサイルを黄海に向けて発射したが、バイデン大統領は「挑発とは思わない。国防総省もいつものことと受け止めている。何も新しいことはない」と相手にしなかった。

「挑発とは思わない。いつものことと受け止めている」と発言するバイデン大統領
「挑発とは思わない。いつものことと受け止めている」と発言するバイデン大統領

そこで改めて新型ミサイルを、しかも日本の強い反発が予想される日本海へ続けて発射したわけで、何が何でもバイデン大統領の記者会見での反応を見たいための挑発ではなかったかと考えざるを得ない。

北朝鮮の狙いは、米国が厳しい対抗手段に出てきた場合は核実験の再開などで挑発をエスカレートして「瀬戸際外交」に引き込むことかと考えられるが、バイデン大統領は反応しなかったのだ。

北朝鮮のミサイル発射はバイデン政権への挑発か
北朝鮮のミサイル発射はバイデン政権への挑発か

「戦略的忍耐」政策の復活か

そこで思い出すのが、オバマ政権の「戦略的忍耐」政策だ。北朝鮮が核実験で挑発するのを無視し続けた結果、北朝鮮は核保有国になってしまった経緯がある。「忍耐」とは「臭いものには蓋を」を言い換えたようなもので、朝鮮半島周辺国がその尻拭いをすることになったわけだ。

北朝鮮が核実験で挑発するのを無視し続けたオバマ政権
北朝鮮が核実験で挑発するのを無視し続けたオバマ政権

当時は副大統領だったバイデン大統領をはじめ、補佐官だったブリンケン現国務長官も「戦略的忍耐」政策の策定に参画していたはずだが、その限界を知りながらここへきて復活させたとすれば何故か?

考えられるのは、トランプ前政権への対抗意識だ。トランプ大統領は4年間に3回金正恩労働党委員長と会談をする一方で、石油輸出規制など最大限の制裁を加えてきた。その結果、北朝鮮は核実験を止めミサイルが日本列島の上空を飛ぶことも無くなった。

バイデン政権としてはトランプ外交を否定したいところだが、現状では北朝鮮に対してより効果的な政策をくりだす手だてはないようにも見える。

米国は近く対北朝鮮政策をまとめると伝えられるが、記者会見でのバイデン大統領の態度を見る限り口では厳しいことを言いながら、その実外交的には何もしなかったオバマ時代の「戦略的忍耐」を踏襲することになるのではなかろうか。

そうなると、北朝鮮はまた挑発をエスカレートして日本の上空をミサイルが飛んだり、核実験が復活したり物騒になることを覚悟しなければならないのかもしれない。

【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】

木村太郎
木村太郎

理屈は後から考える。それは、やはり民主主義とは思惟の多様性だと思うからです。考え方はいっぱいあった方がいい。違う見方を提示する役割、それが僕がやってきたことで、まだまだ世の中には必要なことなんじゃないかとは思っています。
アメリカ合衆国カリフォルニア州バークレー出身。慶応義塾大学法学部卒業。
NHK記者を経験した後、フリージャーナリストに転身。フジテレビ系ニュース番組「ニュースJAPAN」や「FNNスーパーニュース」のコメンテーターを経て、現在は、フジテレビ系「Mr.サンデー」のコメンテーターを務める。