福井の高校生が開発し、JAXAの宇宙日本食に認定された「宇宙サバ缶」。ドラマ化で再び注目を集めるこの開発秘話には、いまも受け継がれるユニークな校風と、地元企業の熱い思い、そして世代を超えて受け継がれる技術と歴史が詰まっていた。
「宇宙に行った気分になれる」
2018年、福井県立小浜水産高等学校(現:若狭高校)の生徒たちが開発したサバ缶が、全国の高校で初めてJAXA(宇宙航空研究開発機構)の「宇宙日本食」に認定された。
宇宙飛行士の野口聡一さんが実際に宇宙で食べたことでも話題となり、その偉業はいま、俳優の北村匠海さん主演の月9ドラマ「サバ缶、宇宙へ行く」で再び脚光を浴びている。
市内の「道の駅 若狭おばま」には特設コーナーが設けられ、宇宙サバ缶がずらりと並ぶ。買い求めるのは地元の人にとどまらず、県外からも訪れるという。店員は「多い人は1ケース以上持って帰られて、びっくりしたこともあります」とその人気ぶりは相当なものだ。
店頭に並ぶのは2種類。高校生が開発し、現在も宇宙食として採用されているもの(2000円)と、地元企業が市販用に食べやすくアレンジしたもの(810円)だ。どちらも決して安価ではないが「普通のサバ缶よりも甘めの味付けで、何より宇宙に行った気分になれる」と人気だそうだ。
「異質のものに対する理解と寛容」の校風
宇宙サバ缶を開発したのは、日本初の水産高校として設立された福井県簡易農学校水産課、後の小浜水産高校だ。2015年には、江戸時代に開校した小浜藩校「順造館」を前身とする若狭地方屈指の名門校、若狭高校と統合された。この“異質”な2校が合わさったのが、現在の若狭高校だ。
若狭高校の渡邊校長は「生徒の活躍を取り上げてもらい大変ありがたい」とドラマ化を喜ぶ。サバ缶の製造現場は厳格な決まりがあるため撮影は叶わなかったが、校長自ら校内を案内してくれることに。
校長は授業中でもためらうことなく教室に入り、生徒の様子を見て回る。生徒たちも、特に気にする素振りはない。「よく授業中でも見に行くので、あんまり気にしてなかったでしょ」と校長。
この“自由”な雰囲気こそが、若狭高校の校風だという。ある生徒は校長公認でアイドル活動を行っている。「地域をもっと活性化させたり、自分が観光資源になりたいと思ったからです」と理由は明確だ。
若狭高校における自由とは、自分の強い意志に由(よ)って行動すること。それを支えているのが「若狭高校が長く大切にしてきた異質のものに対する理解と寛容の精神」だと校長は語る。

違う価値観に触れるこの精神こそが、サバ缶を宇宙へ飛ばす原動力となったというのだ。
「宇宙いけるんちゃうん」から12年
“サバ缶を宇宙へ”という壮大な夢のハードルの一つが、認証取得だった。第一段階として2006年、小浜水産高校時代に「サバ醤油味付け缶詰」が、NASAが宇宙食のために考案した食品安全管理システム「HACCP(ハサップ)」の認証を受けた。
JAXAから宇宙食として認定されたのは、その12年後の2018年だ。当時、3年生の担任をしていた山下教諭は「HACCPの基準をクリアできれば、実は宇宙食にも認定されるということもあって(2006年頃から)“これ宇宙行けるんちゃうか”みたいな雰囲気があった」と振り返る。
当初は「夢のまた夢だよね」という思いもあったが、その夢は後輩たちへと引き継がれ、12年後に宇宙日本食に認定されるという偉業につながったのだ。
教頭を辞し缶詰工場を再建
高校生たちの夢と情熱は、地域にも大きな影響を与えている。
高校生が開発したサバ缶を食べやすくアレンジした「若狭宇宙鯖缶(810円)」を製造・販売する福井缶詰。実はその初代社長は、小浜水産高校の教頭だったのだ。
福井缶詰は元々、旧日本軍用の缶詰工場だったため、終戦後は廃工場となっていた。それを「サバ缶は小浜の文化だ」と教頭を辞して再建させたのが初代社長だったという。
“小浜のサバ缶文化を守りたい”という一人の男の思いが、宇宙サバ缶へとつながったのだ。
「感動する一缶」を目指して
福井缶詰では今も、若狭高校のサバ缶開発の記録を残した通称“黒ノート”を元に若狭宇宙鯖缶を製造している。
若狭高校の宇宙サバ缶に使われているのは、若狭湾の養殖マサバだが、福井缶詰が使うのは、脂のりと身の質が良いノルウェー産のサバだ。
かつて小浜では「海の底からサバが湧いてくる」といわれるほどサバが獲れ、鯖街道文化と共にサバ缶製造が盛んだった。
しかし、乱獲などの影響で不漁となり行き着いたのが、徹底した資源管理を行う漁業大国ノルウェーのサバだったのだ。
冷凍状態で仕入れたサバは、鮮度を保つため半解凍の状態で処理する。苦みや臭みの原因となる血合いは、包丁で手作業で取り除く。
重田社長が「ここまでやってる会社は、ほかに私は知らないですね」と語るように、このひと手間が「青魚が嫌いな方でも食べやすくなる」秘訣だという。

そして、宇宙食用のサバ缶が無重力空間で中身が飛び散らないようにくず粉で固められているのにならい、市販用もあえて隙間ができるようサバの量を調整して詰める。
調理法は焼くでも煮るでもなく「蒸す」。15分かけて蒸すことで余分な脂と煮汁を落とし、缶の中で脂が白く固まるのを防ぐという。その後、若狭高校がJAXAの認定を受けたレシピを元に、地球でも食べやすいよう粘りを調整した醤油ベースの調味液を充てん。「パカッと開けて感動してもらえる一缶を目指している」という。
若狭高校の生徒たちが小浜の缶詰を盛り上げていることについて重田社長は「非常に誇らしいし、その一連の流れに関われていることに感動している」と語る。

宇宙に行ったサバ缶には、小浜の恵み、文化、歴史、そして世代を超えて受け継がれてきた人々の思いが、ぎっしりと詰まっている。
