雪深い福井の冬、鉄道会社では“県民の足”を守るため深夜に長時間に及ぶ除雪作業が行われていた。その主役は100歳の機関車「デキ11」。氷点下で凍てつく架線や、固まった雪と格闘し“県民の日常”を守る鉄道マンたちの闘いをカメラが追った。

100歳超えの現役機関車「デキ11」

雪が深々と降り積もった2月9日、深夜0時過ぎ。この日の福井市内の最低気温はマイナス2度。身を切るような寒さの中、福井市の福井鉄道福武線「赤十字前駅」では翌朝の運行を守るため、深夜の除雪作業が始まろうとしていた。

除雪のスタート地点(深夜0時過ぎ)
除雪のスタート地点(深夜0時過ぎ)
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除雪作業を率いるのは、福井鉄道の笹原且守さん(25)。除雪担当3年目にして、現場を知り尽くすエキスパートだ。

大正13年につくられた機関車
大正13年につくられた機関車

線路の除雪で活躍するのは、レトロな雰囲気の機関車「デキ11」である。

「大正13年ごろにつくられた電車」だという。100年以上前に製造された機関車が、いまも最前線で活躍しているのだ。

福井鉄道で最も古い木造機関車
福井鉄道で最も古い木造機関車

デキ11は、1923年(大正12年)に導入された福井鉄道で最も古い木造機関車。約40年前に除雪用に改造され、現在は大雪になった際に路面区間の除雪を担う。

通常の車両より一回り小さく“小回り”がきく
通常の車両より一回り小さく“小回り”がきく

車体が小さく、自動車や駅のホームなどに接触するリスクが低いのが強みだ。

地面スレスレ、ミリ単位の職人技

除雪出動の目安は積雪15センチ以上。

除雪作業を率いる笹原さんが出発前の点検
除雪作業を率いる笹原さんが出発前の点検

笹原さんたちが出動準備を始める。架線からの電力供給や機器の作動を約30分かけて慎重に点検する。

除雪区間は、福井市の赤十字前駅から田原町駅までの路面電車区間、往復約6.6キロだ。

除雪する路面電車の区間
除雪する路面電車の区間

駅で待機中、笹原さんたちは除雪装置「スノープラウ」の調整を始めた。路面電車のレールは地面に埋め込まれているため、わずかな雪でも運行不能になる。

ミリ単位の調整が必要
ミリ単位の調整が必要

そのため、スノープラウをレールのわずか4センチ上、指2本分という地面スレスレの高さに設置する必要があり、ミリ単位の調整が必要となる。

凍結した架線や雪…時にスコップを手に格闘

午前2時半、調整を終えたデキ11が田原町駅を目指して動き出した。運転手1人と、運行指示や監視を行う2人の計3人での作業だ。

3人が乗り込み除雪機関車が出動
3人が乗り込み除雪機関車が出動

順調に進んでいたと思われていた矢先…事態が急変した。車体が大きく揺れ、機関車が停止してしまった。

線路上の雪が固まり進めなくなった…
線路上の雪が固まり進めなくなった…

原因は架線の凍結と、圧雪状態になったレール。電力供給が不安定になり、車輪が滑って進めなくなったのだ。

笹原さんたちはスコップを手にデキ11を降り、手作業でレールの雪を掻き出す。凍った雪は進行を妨げるだけでなく、脱線の危険もあるからだ。

手作業で除雪しながら少しずつ前進
手作業で除雪しながら少しずつ前進

機関車を前後に動かし脱出を試みるも、車輪は空回りするばかり。経験豊富な運転手からも「こんな例ない」「無理すると脱線すね…」と焦りの声が漏れる。

最大の難所…橋に向かう上り坂に差し掛かる

スコップで雪かきをしては少し前進するのを繰り返し、やがて足羽川にかかる幸橋付近、最大の難所である上り坂にさしかかった。

上り坂の“難所”に差し掛かる
上り坂の“難所”に差し掛かる

「上れれば奇跡や」。一度バックして勢いをつけ再発進する。運転手の長年の経験と勘で、デキ11は力強く道を切り開き、難所を乗り越えた。

大勢の鉄道ファンがカメラを構える
大勢の鉄道ファンがカメラを構える

沿道には、この100年現役の勇姿を撮影しようと、県内外から集まった鉄道ファンの姿も見られる。

1時間かけて折り返しの駅に到着
1時間かけて折り返しの駅に到着

午前3時半、終点の田原町駅に到着。雪がなければ15分ほどの道のりを1時間以上かけて走破し、休む間もなく折り返しの準備が始まる。

豪雪と戦い続けた鉄道マンの歴史

福井鉄道は、前身の福武電気鉄道が開業した大正13年(1924年)以来、幾度も豪雪に見舞われてきた。福井市で積雪2メートル超を記録した昭和38年の「サンパチ豪雪」では復旧に1カ月を要した。

昭和38年の豪雪
昭和38年の豪雪

この苦い経験は、昭和56年の「ゴーロク豪雪」で生かされる。当時、指令室にいた中村和明さん(81)は、電車を止めないため「夜通し空の電車を走らせて線路に道をつける」という前例のない秘策を打ち出した。

この作戦により、大雪にもかかわらず終日運休はわずか2日に抑えられた。

「鉄道マンだから、お客様を安全に目的地まで送るのが大前提。なんとかして電車を走らせるという思い」と中村さんは語る。

56豪雪での運休はわずか2日
56豪雪での運休はわずか2日

地域の日常を守るという強い思いが、鉄道マンたちを突き動かす原動力となっているのだ。

“県民の足を守る”という使命感

午前4時半、出動から2時間後、デキ11は往復6.6キロの除雪を無事に終えた。

作業を終えた笹原さんは「利用する学生さんやサラリーマンの皆さんのため、電車を止めたくないという思いはみんな一緒。安全に利用してもらえれば」と語る。

翌朝は通常運行
翌朝は通常運行

夜が明け、電車はいつも通り人々を運ぶ。その当たり前の日常は、過酷な環境で“県民の足を守る”という使命に燃える鉄道マンたちの闘いに支えられていた。

福井テレビ
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