緊張状態が続く中東情勢が、遠く離れた鹿児島の日常にも静かに忍び込んでいる。食品包装資材の欠品リスク、農業経営を圧迫する燃料高騰、そして歯科医院では女性用グローブの在庫が「あと2、3日分」という事態も。石油を起点とした連鎖が、県内各地の現場を揺さぶっている。
「トレーがないとスーパーは大パニック」——鹿児島市の包装資材卸売業者
鹿児島市で食品包装資材の卸売りを営む大洋商会は、スーパーで広く使われる食品トレーをはじめ、レジ袋や手袋などを国内外のメーカーから仕入れ、1日数十万点の商品を県内の小売店に届けている。扱う商品のほぼ全ての原材料が石油だ。
すでに異変は起きている。海外で製造された弁当用レジ袋は、5月以降の仕入れで約15%の値上げが打診されたうえ、仕入れ数に制限がかかった。田實大志朗会長は「値段が高くなるのは仕方ないが、商品が届かなくなるのを心配している」と話す。

主力商品である国内製の食品トレーにも値上げの予告が届いており、欠品の恐れが現実味を帯びてきた。新規の取引を断らざるを得ない状況にもなっているという。

「トレーがないとスーパーの営業ができない。大パニックになる。(繁忙期の)年末にかけて満足に商品が入ってくるかが心配」
値上がりが商品価格に転嫁されれば、私たちの食卓への負担はさらに増す。
グローブの在庫「あと2、3日分」——鹿屋市の歯科医院
鹿児島県鹿屋市の四季デンタルクリニックでは、3月中旬から診療に欠かせない医療用グローブや患者用エプロンなど、石油由来の製品が入手困難な状態が続いている。石油由来のグローブだけでなく、ゴム製のグローブまで手に入りにくくなっているという。

在庫を見ると、女性用グローブは「あと2、3日分くらい」。納品書にはエプロンとグローブの注文が「欠品のため取り消し」と記されていた。
クリニックでは毎日さまざまな通販サイトをチェックし、どうにか在庫を確保している状況だ。中垣内卓院長はこう語る。
「コロナの記憶がまだ残っていると思う。あの時もグローブやマスクなどが、どんどん値は上がるけど欠品していく状態だったので、そこが不安です。まずは日常に戻って欲しい」
売り渡し価格は決まっている——種子島のサトウキビ農家にも打撃
種子島でサトウキビの収穫が佳境を迎える中、鹿児島県中種子町の農業生産法人「向耀ファーム」でも燃料高騰が経営を直撃している。収穫作業に使うハーベスターは1日50〜70リットルの軽油を消費し、精脱作業の運搬車両にも軽油が必要だ。

問題は、サトウキビの売り渡し価格がすでに2025年11月に決定済みであることだ。2026年に入ってからの燃料高騰分はコストに転嫁できない。梶屋誠之代表は「施肥設計の見直しや効率的な操業を心がけてコストを削減していくしかない。1円でも安くなってもらえるように願うばかり」と、じりじりとした焦りを口にする。
生活の深部へ忍び込む「石油」への依存
高市総理は「備蓄の放出や代替の調達先を確保し、日本全体として必要な量は確保されている」としている。しかし、食品トレー、医療用グローブ、農業機械の燃料——石油はあらゆる場面で私たちの生活を支えており、その供給不安は確実に県内各地の現場へと波及している。
「売る物がなくなるのではないか」という大洋商会の田實会長の言葉は、決して大げさではない。中東情勢の行方が、鹿児島の日常を左右するという現実が、静かに、しかし確実に迫っている。
(動画で見る▶包装資材不足懸念 石油供給不安で「トレーがなくなる」可能性、卸売業者が警鐘)
