2026年3月28日、ついに広島電鉄「循環線」が開業。それは、廃止の危機にあった電停を守りたいという沿線住民の強い要望から始まった。広島の街とともに歩んできた“ヒロデン”らしい新路線の幕開けである。
広島市中心部を巡る「循環線」出発
「循環線出発進行!発車!」
号令とともに動き出した電車に、ホームから拍手が湧いた。
広島電鉄の循環線は、広島市中心部と南区・比治山エリアを結ぶ1周7キロ。広電本社前を起点に「内回り」と「外回り」で周回し、21の電停を結ぶ。日中の時間帯(午前10時~午後4時)に運行され、ダイヤは平日が約25分間隔、休日は約45分間隔となっている。
沿線には、朝からカメラを構える鉄道ファンの姿もあった。
「感無量ですね。路面電車が大好きなので」
「新鮮どころか、環状線って都会のイメージ」
循環線のイラストを書いてきた子どももいた。
「一番電車に乗るのが楽しみ」
それぞれの言葉に、開業を待ちわびた思いがにじむ。
ヘッドマークに込めた“21の電停”
そんな新路線を象徴するのが、円形のヘッドマークだ。
循環線の21電停を21枚の花びらに見立て、街を一周する“輪”を表現。円の中央にはレトロな650形の車両が描かれている。
考案したのは、普段は電車の運行に関わらない“不動産部門”の社員。広島電鉄不動産企画部の藤孝紘さんがデザイン案を作成し、2025年秋から若手を中心としたメンバーで検討を重ねてきた。
「僕はこの中央のデザインが結構好きだった。美術館の雰囲気がある緩いイメージ。ただ、これだけで初めて見る人に伝わるか疑問を持たれて、消えていった」
いくつもの候補の中から試行錯誤の末にたどり着いたのが、誰にでも伝わる“輪”のデザインだ。
「循環線を走るのは主にレトロな車両なので、650形を中央にあしらいました。親しみをもって眺めてもらえたら」
そのヘッドマークを掲げ、開業初日に外回りの一番電車を担ったのは、被爆電車の652号だった。
消えかけた電停に再び乗客
一番電車を、特別な思いで迎えた地域がある。元々の電停を解体し、新たにカーブを敷設した的場町だ。
この的場町と段原一丁目の電停は、駅前大橋ルートの開業で廃止が検討されていた。
「電停を残してほしい」という沿線住民の強い要望が、循環線誕生の出発点となった。
開業まで1週間を切った3月22日。“最後のパーツ”として地元住民に手渡されたのは、解体前の電停に設置されていた「レリーフタイル」だった。約30年前に設置されたタイルが、新たなタイルとともに再びホームの床に埋め込まれる。
住民と工事関係者が共同で行った最後の仕上げ。一度消えかけた電停は、見事に返り咲いた。
的場町電停の目の前で生まれ育った町内会長の可部典良さんは、工事で休止していた期間を振り返る。
「走っていた電車が走らなくなり、8月3日から乗降客がパタッといなくなったわけですから、人通りがずいぶん変わりました。電停があるというのは、乗り降りする人が集まるということ。それが大事だと思うんです」
3月28日、再び一般客を乗せて走る光景を目にした可部さん。「感無量」の一言だった。
4つの稲荷町電停に“A〜D”表示
もう1つ、装い新たにスタートを切ったのが稲荷町電停。以前よりもホームの幅を広げ、車いすの利用者や子ども連れにも優しいバリアフリー仕様に生まれ変わった。
ここには、広電史上「最も難しい工事」とされた“十字クロス”がある。技術者たちがレールの位置をわずか数ミリ単位で調整しながら、交差する軌道を組み上げた。工事に携わった電車技術部の八木秀彰部長は「多くの人の思いが一本のレールにつながった」と語る。
稲荷町交差点は、各方面へ向かう分岐点だ。交差点を囲むように「4つの稲荷町電停」が配置されている。このうち3つは駅前大橋ルート開業時から使われてきたが、残る1つも循環線の開業で利用が始まった。
循環線は広島駅へ行かないため、稲荷町が乗り換えスポットになる。しかし、同じ交差点に4つある稲荷町電停。乗り換える電停をわかりやすくするために導入されたのが、それぞれのホームに「A~D」のアルファベットを割り振った案内表示だ。
たとえば、広島駅方面に向かうならA、宮島方面ならB。観光客や初めて利用する人でも行き先がひと目でわかるようになった。
鉄道ファンの興奮、沿線住民の期待
開業日、沿線では鉄道ファンからもさまざまな声が聞かれた。
帰省中の大学生は、笑顔でこう話す。
「一番興奮したのは、皆実町六丁目で2回停車するところ。同じ電停名が続くなんて考えられない」
県内に住む別の大学生も、これから運行予定のレトロ車両に期待を寄せる。
「602号みたいな普段なかなか見られない電車が走ったらうれしい」
一方、開業を祝う電車の中では地域住民から広島電鉄に、工事で伐採されたクスノキを再利用した盾が贈られた。工事の無事故と街の活性化への感謝が刻まれている。
盾を手渡した広島駅前通り勉強会の代表・岡野泰明さんは、地域の未来を思い描く。
「もちろん電車にも乗ってほしいが、稲荷町で降りて歩いていただきたい。今、楽しい街づくりを考えています」
沿線住民の思いに背中を押されて生まれた循環線。ヒロデンは、これからも広島の街と人をつないでいく。
(テレビ新広島)
