秋田・潟上市の特産品の一つが「佃煮」だ。潟上市に接する八郎潟では、かつて白魚やワカサギの漁が盛んに行われ、市内の昭和地区では100年以上前から独自の佃煮文化が育まれてきた。この「秋田の佃煮」は、文化庁が後世に残したい食文化として認定する「100年フード」にも選ばれている。伝統の味を守りながら、新たな形で魅力を発信しようとする老舗佃煮店の挑戦を追った。
八郎潟とともに育まれた佃煮文化
潟上市では、八郎潟の豊かな水産資源を背景に、家庭の味として佃煮が根付いてきた。現在、市内には5つの佃煮店があり、それぞれが伝統を受け継ぎながら商品開発に取り組んでいる。
中でも1897年創業の「千田佐市商店」は、地域の佃煮文化を象徴する存在だ。長年にわたり地元の食卓を支えてきた老舗が、いま新たな一歩を踏み出している。
家業に加わった若き担い手の模索
6年前に家業に加わった千田佐市商店の千田浩太さん(33)は、佃煮の魅力をより多くの人に届けたいと考えてきた。
その取り組みの一つが、2025年5月にオープンしたカフェだ。
「かふぇ うたせ」では、佃煮を使ったアイスやパフェなど、洋風のアプローチで新たな客層を開拓している。
千田さんは「自分、そして千田佐市商店としての軸は、佃煮をたくさんの人に知ってもらいたいということ。自分が携わっている中では、洋風というアプローチが多かった」と話す。
一方で、模索を続ける中で、立ち返るべき原点について考えるようになった。
兄からの助言が導いた“原点回帰”
転機となったのは、千田さんの兄で、世界で活躍するピアニスト・桂大さんからの助言だった。
「洋風なだけでなく、伝統に立ち返って、伝統の上でお客さまに知ってもらう方法はないのか」
この言葉に、音楽の世界との共通点を見いだしたという。
「クラシック音楽は、17世紀ごろからの伝統の積み上げの上に成り立っている。その土台があるからこそ、ポップスやロックといった新しい音楽が生まれていく。佃煮も同じで、原点を大事にすることが次につながると思った」と千田さんは語り、新たな商品開発に乗り出した。
“ご飯のお供”としての佃煮を改めて提案
こうして2月に発売されたのが『ごはんによく合うつくだにシリーズ』だ。原点である“ご飯のお供”として、味わいを追求した3種類が揃う。
男鹿産の「ぎばさ」に秋田味噌を合わせた『ぎばさ味噌』、サバのうまみを生かした『ほぐしさば味噌』、三陸産の「あみ」を使った『あみこんぶ』。いずれも素材の持ち味を生かした佃煮だ。
カフェでは、この3品を一度に味わえる新メニュー『だし茶漬け』も提供している。
まずは佃煮とご飯だけで味わい、その後にだしをかけると、佃煮のうまみが広がる。
目指すのは世界の食卓
新シリーズは今後、県内外の米どころを中心に販売される予定だが、視線はすでに海外にも向いている。
開発・販売を担当する若松幹典さんによると、オーストラリアのおにぎり店で日本の食材を探していた業者とタイミングよく出会い、オーストラリア向けに商談が進んでいるという。
千田さんは今後について、「今回は“ご飯に合う”ことを一つの目的にしたが、伝統を崩さない中で、季節に合わせた食べ方の提案や商品づくり、PRをもっと広げていきたい」と語る。
秋田の「佃煮」を世界の食卓へ――。潟上市で育まれた老舗の味は、伝統を礎に、新たな広がりを見せようとしている。
(秋田テレビ)
