北朝鮮の重要方針を決定する朝鮮労働党の第9回党大会の開幕が「秒読み段階」に入った。
平壌には党大会に出席する各地の代表者が続々集結している。そんな中、注目を集めているのが、「キム・ジュエ」氏とされる金正恩総書記の娘だ。
ジュエ氏が表舞台に登場して初めて迎える党大会。ジュエ氏はどんな役割を果たすのか、注目が集まる。
「新星」の演出――主役として浮上するジュエ氏
党大会開催を控えた2月16日は金正恩総書記の父、金正日氏の誕生日だった。
かつては「光明星節」と呼ばれ、北朝鮮では最大の記念日の一つとして祝われてきた。だがこの日の報道で、主役として強く印象づけられたのはジュエ氏であった。
ジュエ氏は前日の15日、金総書記とともに平壌・和盛地区に造成された「セビョル通り」の竣工式に参加した。
ロシアのウクライナ侵攻に際して派遣され戦死した兵士の遺族に住宅を供与する重要行事だ。「セビョル」は朝鮮語で新星を意味する。北朝鮮内部ではジュエ氏の呼称として「朝鮮の新星」「新星女将軍」などが使用されているとも伝えられている。
ジュエ氏を象徴する「セビョル」が通りの名前とされたことは、軍や住民を結束させ、忠誠心を次世代へつなげる政治的メッセージと解釈できる。
式典での彼女の振る舞いも注目に値する。
軍指揮官から単独で敬礼を受け、遺族の子どもを抱きしめる姿は「最高指導者の娘」という枠を超え、自らも指導者の立場を意識して振る舞い始めたように見える。呼称も当初の「愛するお子様」から「尊敬するお子様」へと変化し、象徴的地位の格上げが図られている。
朝鮮人民軍武官出身の脱北者は、2024年に軍内部でジュエ氏が「コンピューターの天才」「核の開発に参加した」などと宣伝されていたと証言した。
金総書記の場合も公式に後継指名される前の2009年に、「3歳で銃を握り、標的に命中させた」などの偶像化宣伝がなされた。北朝鮮の最高指導者には卓越した能力と徳性が必要とされており、ジュエ氏後継をにらんだ「宣伝」活動の一環と見られる。
90日の空白と「成熟」――後継者教育の進展か
ジュエ氏の変化を語る上で外せないのが、2025年秋の約90日間の不在である。
ジュエ氏は金総書記が同年9月に北京で開催された抗日戦争勝利80周年の行事出席のため訪中するのに同行した後、しばらく表舞台から姿を消していた。
再登場の場となった同年11月28日の空軍創設80周年行事では、ジュエ氏はこれまでにない行動を見せた。
金総書記とは別に単独で将兵の敬礼に応じる姿や、1人だけサングラスをかけて、エアショーを観覧する姿も公開された。カメラの構図もジュエ氏が中心となる場面が見られた。これまでの笑顔や控えめな振る舞いから、「威厳」の演出に進んだとの分析が出ている。
また2025年末の、三池淵観光地区のホテル竣工式では、金総書記の肩に手を置き、金総書記の前を歩く姿も捉えられるなど、金総書記と同等の指導者であることが印象づけられた。
一方で母親の李雪主(リ・ソルジュ)氏は意図的に距離を置く構図が映し出された。これは家族の自然な姿というよりも、娘が父の「白頭の血統」を受け継ぐ存在であることを視覚的に最大化する戦略的演出と見ることができる。
韓国の情報機関・国家情報院はジュエ氏について、すでに「後継者内定段階」との評価を示している。ジュエ氏が一部の施策に意見を出すなど「後継者教育」を超え、次期後継者として実績を積む段階にあるとの見方を明らかにした。
もっともジュエ氏後継に対する慎重論も根強い。朝鮮労働党の党員資格は18歳以上に認められるが、ジュエ氏の年齢は13歳と推定され、党役職に就くには早すぎる。また父娘のスキンシップは、金総書記が「人民の父」であるとのイメージを補完するための演出ともとれる。
しかし重要なのは、こうした演出が繰り返され、徐々に「当たり前の光景」として定着しつつあることだ。後継者物語は一夜にして完成するものではない。視覚的象徴を通じて住民の認識を段階的に誘導するプロセスそのものが、北朝鮮型の政治手法と言える。
第9回党大会――ジュエ氏登場あるか
開催が迫っている第9回党大会は、ジュエ氏の後継と関連しても注目される。
党大会は北朝鮮における最高の政治イベントであり、路線・人事・体制の方向性を公式化する場となる。2022年にジュエ氏の存在が公開された後、初めて開催される党大会という点で、その象徴的意味は大きい。
焦点は①党大会本体へのジュエ氏出席の有無②氏名の公式明示③党役職の付与④主席団や幹部席での位置づけが挙げられる。
これらは4代世襲の制度化を進める上で欠かせない手順であるからだ。2021年に行われた第8回党大会では金総書記の代理人となる「党第一書記」の役職が新たに設けられた。
これまでは空席だったこの役職にジュエ氏が就くかどうかも、注目ポイントとなる。
第9回党大会では、核と通常兵器の同時開発や、新たな国防建設の目標が示されるだけでなく、「金正恩思想」が提示される可能性も高い。
その場にジュエ氏が登場すれば、白頭血統の連続性、核武力の継承、未来世代の安定というメッセージが一体化する。これは単なる「人民の父・金正恩」の演出を超え、体制の長期安定を象徴する政治的シグナルになり得るだろう。
逆に、ジュエ氏は党大会には参加せず、祝賀行事や関連イベントで象徴的な役割を果たす「漸進的演出」や、参加や役職の付与を「非公開」とするシナリオも考えられる。
金総書記は42歳とまだ若く、健康状態の悪化も見られないため、後継者を急いで決める必要はない。「白頭の血統」を継ぐジュエ氏を金正恩「次世代」の象徴として可視化するにとどめ、時間をかけて4代世襲の環境作りを進める選択肢も排除できない。
第9回党大会は「後継内定」の場になるのか、「後継に向けた序章」の幕開けに過ぎないのか。ジュエ氏の動向から目が離せない。
