ソーシャルエンターテイメントが休校の子どもに

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ソーシャルエンターテイメントという新しいジャンルを切り開いた「ダイアログ・イン・ザ・ダーク(以下ダイアログ)」。
ダイアログの参加者は、真っ暗闇の空間で視覚以外の感覚を使い、人とのかかわりや対話の大切さ、五感の豊かさを感じるエンターテイメントだ。1988年にドイツで生まれたダイアログは、これまで世界41カ国以上で800万人を超える人々が体験し、日本でも1999年以降22万人以上が訪れている。

今回の新型コロナウイルスの影響で、ダイアログは他のイベントと同様自粛することになった。しかし、臨時休校した子どもたちのために、ダイアログはオンラインという新たな対話の場「ダイアログ・イン・ザ・ダーク・オンラインスタディ」をつくり、無償で開始すると発表した。4日、そのプレイベントを取材した。

「僕は目が見えないから皆の声が頼り」

アテンドの檜山晃さん
アテンドの檜山晃さん

「僕は目が見えないんです。だから目で確かめることは出来ないんですね。みんなの声が頼りになってくるので、気がついたこと、気になることは言葉で教えてもらえたらいいなと思います」

8人の子どもや大人たちの顔が並ぶモニターに、こう語りかけたのは檜山晃さん。ダイアログでは、暗闇の中で参加者を導く案内人(アテンド)をしている。

2016年リオデジャネイロパラリンピック。その閉会式の東京プレゼンテーションで、白い杖を突きながらランウェイを歩いたのは檜山さんだ。ダイアログで檜山さんは「ひやまっち」と呼ばれ、参加した人たちから慕われている。

目を使わない勉強方法を学ぶ

檜山さんの呼びかけに子どもたちは「はーい」と答え、お互いをニックネームで呼び合う自己紹介から対話は始まった。それが終わると檜山さんは、子どもたちにこう言った。

「実は僕はカレンダーが好きなんだよね。何月何日は何曜日かを頭の中でカレンダーを想像して、当てることができます」
「えーーーーー。じゃあ8月5日は?」
「水曜日かな」
「おーーー。すごい」

カレンダーが見えなくても、足し算引き算が出来れば曜日がわかる。
檜山さんは盲学校で目を使わず算数の計算を教わった。理科の授業では天体を学び、目を使う人よりもその形や配置、月の満ち欠けを知っている。国語は目を使わない分耳を使うので言葉を使う表現力が豊かになる。目を使わない勉強方法があることを、子どもたちはオンラインの対話を通して檜山さんと学ぶのだ。

暗やみの経験がオンラインで活きる

ダイアログのスタッフ(右から二人目が志村季世恵さん)
ダイアログのスタッフ(右から二人目が志村季世恵さん)

ダイアログにとっても檜山さんにとっても、オンラインで参加者と対話するのは初めてだった。イベント終了後、檜山さんはこう語った。

「始まる前は心配で凄く緊張していたんです。でも、楽しいなと思ってもらえてよかったなと思っています。暗闇の経験が活きているという実感がありました。画面の向こう側にいる皆さんが言ったことを受けて、僕が展開するというプロセスが暗闇で皆さんを案内することと変わらなかったなと」

総合プロデューサーの志村季世恵さんは、オンラインを始めた理由をこう言う。
「学校にいけない子どもたちが、突然、家にいるというのは大変なこと、私も子どもを育ててきて想像がつきます。子どもたちがどうすれば少しでも楽しく過ごせるのか。そして同じ自粛しているときに、私たちが出来ることは何だろうと考えたとき、そうだ、今の現状に合わせた対話にしようと思いました。ダイアログはエンターテイメントですけど、世界がより良くなったらいいなという思いで続けています」

リアルな場でなくても対話は出来る

ダイアログはこれまでリアルな場で出会い、対話を楽しむイベントだった。しかし新型コロナウイルスでイベントは自粛せざるを得なかった。

「政府から自粛の話があったときに、それに応えダイアログも先月から自粛しています。では、ここに来ないで済む方法は何かなと考えたときに、オンラインで子どもたちとアテンドたちを繋げようと思い立ちました。暗闇の経験はどこでも活かすことが出来るだろうなと」(志村さん)

檜山さんはこう語る。
「子どもって出来ないことが一杯あって、だんだん出来ることが増えてきて大人になるじゃないですか。僕は大人になっても見ることは出来ない。だからお互いが補完し合うというか、プラスマイナスゼロになるという、そんな対話をしている感じが好きなんですよね」

6日からスタートする「オンラインスタディ」は、今後週に2回のペースで行われる予定だ。暗闇のイベントと同じように、参加者は8人とされ、その模様は別途YouTubeで配信される。

前例無き状況が人を成長させる

前例の無いこの状況の中で、「それぞれが共に成長し合うことをダイアログは目指している」と志村さんは言う。
「今の状況に対して少しでお手伝い出来ればと始めたのですが、遠方にいてダイアログに参加できないお子さん、もしくは病院にいるとか、学校に行きにくいとか、様々な状況にいるお子さんともオンラインを介しておしゃべりし、遊んだり、学び合うことは今後できるかなと思います」

子どもたちが普段できない学びと対話の場に出会う。前例の無い状況だからこそ人は成長し、オンラインが可能性を無限に広げることを、ダイアログ・イン・ザ・ダークが証明してくれる。

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】

鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。