シニア体験

8月31日付けで38年勤めたフジテレビを定年退職した。「社員就業規則28条1項3号の規定により職を解く」と書かれた辞令を見ても他人事のようだ。9月1日付けでフジと新たな労働契約を結んだので、今月になっても先月と同じように働いているのだが、なんだか力が抜けたような不思議な気分だ。

他人事のように感じる辞令
他人事のように感じる辞令
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せっかく還暦になったのにシニア割引がないと怒っていたら、ありました!
週末に栃木県那須の「りんどう湖レイクビュー」という動物園に行ったら、入口で妻が「シニア割引がある!」と大声を出した。切符売り場の料金表を見ると、確かに大人1600円に対し、シニア(60歳以上)は1100円だ。しまった!身分証を持ってないぞ。ドキドキしながら「シニア一枚」と言ってみたらちゃんと売ってくれた。次から身分証は必携だ。

「りんどう湖レイクビュー」シニアチケット
「りんどう湖レイクビュー」シニアチケット

ということで緊張の初シニア体験は終わった。

ここは幼児から小学校低学年向けの施設なのでパパママは当然若く、20~30歳代が中心。60歳代だと一緒に来たジジババということになるのだろう。500円得したものの、やや黄昏れてしまった。

年金の財政検証にはひと安心

さてサラリーマンは60歳で定年退職しても原則、厚生年金のフル給付が始まる65歳までは働ける。言い換えれば65歳になれば年金中心の生活になる人が多い。ということで先週政府が発表した年金の財政検証には個人的に大いに関心があった。

結論から言うと、僕が90歳になる30年後(まだ生きてるだろうか?)、標準的な経済成長だと年金は現役収入の5割を維持するらしいので、もらう額は多少減っても、年金制度は継続していることがわかりホッとした。

しかしメディア各社は「30年後に2割または3割目減りする」「今の20歳は68歳まで働く必要」などおおむね悲観的トーン。さらに野党は「そんなにバラ色ではない」「国民年金の積立金が枯渇する可能性がある」などとあおった。

実際には積立金はまず枯渇しないし、年金制度そのものが危機的な状況ではない。これまで制度を少しずつ修正してきたように、今後も必要に応じて修正を繰り返していけばいいだけのことなのだ。

実は年金財政は社会保障の中でも医療や介護に比べれば安定している。それなのにこれまで野党とメディアが必要以上に危機をあおってきたため、もらえないのではないかと不安を持っている国民が多い。

以前友人の刑事さんが「年金ってそんなにもらえないんだろ」と聞くので、「バカか!公務員は年間〇〇万円もらえるぞ」と教えたら驚いていた。公務員なのに知らないのか、とこっちの方が驚いた。

公平を期すなら政府および与党の方は逆に「大丈夫」「安心」と言いすぎだ。問題点はいくつもあり、修正もしなければいけないのに「大丈夫」と言いすぎるため野党やメディアがムキになって「ダメだ」と言っている。与党も野党もメディアも、年金を政治的対立点にして利用してはいけない。

確かに低成長だと年金は目減りしていく。ただ定年が実質65歳に延び、その先働く人も増えれば年金保険料は増えるし、給付時期も後ろにズレる。そのあたりの社会の構造改革をきちんとやれば年金制度は十分に継続する。

必要なのは政治家と国民の覚悟

1つだけやってはいけないことがある。それは消費税を下げるとか、やめるとか、あるいは年金保険料を積み立てなくても最低補償年金はもらえるとか、そういう決して実現しない夢のようなことを政治家が国民に吹き込むことだ。そんな桃源郷のような国は世界中どこにもない。

現実を国民に伝えるのは辛い仕事だ。できれば楽しい夢を伝えたい。でも夢でなく現実の痛みを国民に示すことこそ政治家にしかできない仕事だと思う。

30年後、僕が90歳の時、年金制度はまだ継続しているらしいことはわかった。医療や介護保険も大丈夫だろう。でもその時、娘はまだ35歳。さらに30年後、彼女が65歳になった時、これらの社会保障ははたしてまだ機能しているだろうか。娘は年金をちゃんともらえるのか。それは政治家と国民の覚悟次第だ。

【執筆:フジテレビ 解説委員 平井文夫】

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平井文夫
平井文夫

言わねばならぬことを言う。神は細部に宿る。
フジテレビ報道局上席解説委員。1959年長崎市生まれ。82年フジテレビ入社。ワシントン特派員、編集長、政治部長、専任局長、「新報道2001」キャスター等を経て現職。