石破氏まさかの逆転勝利
石破茂氏が自民党総裁に選出された。1回目の投票で党員票では予想通り石破氏と高市早苗氏が強く、小泉進次郎氏を引き離して決選投票に進み、決選では小泉票や岸田派の票が石破氏に回り215対194で高市氏を退けた。
この記事の画像(11枚)1回目の投票では高市氏が党員、議員票ともに石破氏をリードし、このまま勝つのかとも思われたが、決選投票では議員票で石破氏がまさかの逆転勝利し、会場はどよめいた。
今回の総裁選は9人の候補者が出たため、これまでのように議員票で決まるのではなく、党員票で決まる、すなわち人気投票になると見られ、当初は世論調査で告示の前くらいから急速に人気の出た小泉氏が本命と見られていた。
だが告示後に政策論争が始まると小泉氏の「弱さ」が明らかになった。選択的夫婦別姓を1年以内に実現すると提言したが、保守系の高市、小林鷹之、加藤勝信氏から慎重姿勢を示されただけでなく、リベラル系とされる林芳正氏からも賛同は得られなかった。
また解雇規制の見直しも訴えたが中身が「生煮え」で論客の他候補から一斉攻撃を受けた。日本テレビは党員に対する電話調査を3回行なったが、小泉氏は回を追うごとに下がり、逆に高市氏は上がり、石破氏はトップを維持するという展開だった。
今回、決選投票では小泉陣営の票が入ったことが勝ちの決め手になったので、石破政権では小泉氏やそのバックにいた菅義偉元首相、二階派の実力者である武田良太元総務相らが影響力を及ぼすことになる。
また岸田文雄首相は高市氏より石破氏の方を好んでいたので票を回したとみられ、岸田氏も影響力を残すことになるだろう。
ゲルが「発見」された時のこと
それにしても2012年の総裁選で安倍晋三元首相に敗れて以来、当初は幹事長や地方創生相など目立つところにいたが段々中枢から遠ざけられ、派閥も解散し、典型的な「ひや飯食い」生活を続けた石破氏が、まさかトップに上り詰めるとは正直思っていなかった。
石破氏が一躍有名になったのは2002年に防衛庁長官として初入閣した時だ。一時期ネット上で「ゲル長官」と呼ばれていた。「いしばぼうえいちょうちょうかん」を漢字変換すると、当時は石破という姓が珍しく、「石橋ゲル防衛庁長官」と変換候補が示されたことに由来するらしいが定かではない。
ゲルが初入閣した時、私は政治部デスクをやっていたのだが、組閣翌日の昼のニュース用にゲルの議員宿舎にカメラと記者を手配した。初入閣の閣僚が朝食を食べながら抱負を語るという、よくあるニュースだ。
担当記者から電話があり「面白い映像が撮れました」という。映像を見ると宿舎の部屋はプラモデルだらけのいわゆる「オタク」部屋で、石破氏が大きな体をかがめて目玉焼きを自ら作り、記者に「食べる?」と聞く。そしてあのねっとりとした口調で熱く国防を語る。
これは面白い!番組に売り込んだらいつもより長い時間をくれた。放送後夕方の番組担当者、翌日の朝の情報番組の担当者が次々にデスクに来て「あのオタク大臣は誰だ」「他に素材ないのか」とひっきりなしだった。その日以降、石破氏はテレビ番組の常連になった。新しい政治スターが「発見」されたのだ。
あれから22年、ついに石破氏は自民党総裁になった。ゲルの魅力は「キモカワ」だと言う人がいるが首相になる人に対して「気持ち悪いがかわいい」はちょっと失礼かもしれない。だが「かわいげ」があることはリーダーの必須要件だ。「親しみやすさ」と共に新首相の武器になるだろう。
いくさは敵の嫌がることをやれ
ただ石破政権の先行きを楽観的に考えるのは気が早いかもしれない。「政策には強いが友達は少ない」というのはリーダーとしては少し不安だ。まず組閣と党人事にどう取り組むのか。官房長官や幹事長に誰を指名するのかが当面の最大の課題だ。
また惜しくも負けた高市氏をどう処遇するのか。これはなかなか難しい。失敗すると党内に大きな反対勢力を作り、分裂の芽ができてしまうので要注意だ。高市氏としても次を見据えてどう動くか気になるところだ。
そして何より解散総選挙をいつやり、どうやって勝ち抜くかということだ。小泉進次郎氏が勝てば最短の10月27日投開票になると見られていたが、国会論戦に意欲を見せていた石破氏がどうするのか。
これは絶対早くやった方がいいと思う。なぜなら野党第1党の立憲民主党の幹部が声を揃えて「国会論戦なしに解散するな」と言っているからだ。立憲の人たちはすぐに解散してほしくないのだ。だったらすぐ解散しろ。相手の嫌がることをやるのがいくさの常道だ。
石破次期首相、ここは即解散の一手だと思う。
【執筆:フジテレビ客員解説委員 平井文夫】