激痛が走るも、検査では「異常なし」

「線維筋痛症」は、全身に激しい痛みが起こる原因不明の病気です。
しかも、確かに痛みは存在するのに体のどこにも異常は見られません。血液や尿検査、脳波、心電図、X線検査、CT、MRI画像などでは異常がないのです。
では、患者数の少ない、まれな疾患かというとそうでもありません。
厚生労働省の研究班による住民調査によって、「線維筋痛症」患者数は一般人口当たり1.7%、約200万人と推計されました。
これは、一般人口当たり2%前後の欧米の患者数とほぼ同じです。

わずかな刺激が大きな痛みに!

症状としては、思い当たる原因がないのに、体のある部位のしつこい痛みから始まります。
やがてその痛みが全身のあちこちに広がり、さらに全身のこわばり、しびれ、口や目の渇き、頭痛など多彩な症状を伴なっていきます。
爪や髪への刺激、服のこすれ、気圧、気温、光、音などあらゆる外的刺激を、時に激痛として感じるため、外出が苦痛になるなど社会生活が困難になります。
また、痛みに対する不安から「うつ病」の合併率は30~50%、ストレスを我慢して内在化させる「失感情症」も44%と高くなっています。

特異な2つのステップで発症!

「線維筋痛症」の原因ははっきりしていません。
ただ発症には、非常に特異な2段階のステップがあると考えられています。
1ステップ目は、思春期に受けた虐待やトラブル、手術や事故などによる外傷、PTSD(心的外傷後ストレス障害)です。
2ステップ目は、それから一定の時間経過後に、さらに外傷、手術、身内の不幸や離婚など、新たな外傷やストレスが加わることです。
それらがトリガーとなり、脳が外部刺激の処理をミスしてしまい、実際に受けた何倍もの刺激を感じて発症すると考えられています。

日本の場合、男女比は1対5〜8。年齢30〜50代と中年女性にシフトしていますが、10代での発症もあり、全年齢層にわたっています。
また「線維筋痛症」には発症しやすい性格があり、「几帳面」「完璧性」「強迫性」の3タイプとされています。

自殺予防の対策も重要

「線維筋痛症」は原因不明のため、現状では残念ながら根治療法はありません。
治療はそれぞれの症状に合わせた対症療法が中心となり、鎮痛剤「リリカ」や抗うつ剤などが使われることがあります。
薬物療法によって痛みを和らげ、適度な運動を組み合わせていきます。
しかし、患者さんにとっては月に15,000円~25,000円かかる医療費も大きな問題です。
また、欧米では「線維筋痛症」は長期経過とともに自殺率が増加するため、その対策も重要とされています。
日本でも2007年、出産後に「線維筋痛症」を発症し、全身の疼痛に悩まされていた女性アナウンサーが自殺をするという痛ましいニュースが報じられました。

 
 
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新たな治療薬開発に期待!

明るいニュースもあります。
横浜市立大学と長崎大学などの研究チームは、「線維筋痛症」の原因物質の候補となる<NRSF>というたんぱく質を見つけたと発表しました。このたんぱく質の働きを抑える化合物を、似た症状のマウスに投与すると痛みの症状が改善したのです。
研究チームは、改良して治療薬の開発を目指すということです。

ガガさんも、相当に苦労し、痛みに耐えながら、ステージ活動等を行っていたと推測されます。
大スターでなくとも、子育て、仕事、家事、介護と、女性の日常は多忙で、大きな負荷がかかっています。痛みや不調があっても、休みことも出来ず、我慢している人が多いのではないでしょうか。
しかし、長く続く体の痛みには要注意です。
体幹部や肩関節に痛みを感じる。それが全身に広がり、痛みが強くなる。
このような症状が3か月以上続く場合は、早目にリウマチ内科等で診察を受けましょう。


(執筆: 高山哲朗)

高山哲朗
高山哲朗

日々の診療では患者さんの健康維持・増進により深く貢献できるよう努めております。的確な診断、共に疾患をコントロールすること、日々の健康を管理し病気にならないようにすることは内科医の責務と考えています。常に学ぶこと、根拠に基づく説明を分かり安く行うことを心がけてまいります。
慶應義塾大学病院、北里研究所病院、埼玉社会保険病院等を経て、平成29年 かなまち慈優クリニック院長。医学博士。日本内科学会認定医。日本消化器病学会専門医。日本消化器内視鏡学会専門医。日本医師会認定産業医。東海大学医学部客員准教授。予測医学研究所所長