「不安とか、ほてりとか、心臓がドキドキして汗が出たり…どうしたんだろうと病院に行った」
タレントのヒロミ(58)さんが昨年、自身が「男性更年期障害」であることを告白して話題になりました。
更年期障害について、「女性のものと思っているかもしれないけど、男性にも絶対ある」と話しました。
「早朝勃起」の回数減少にも象徴される「男性更年期障害」は、一般に思われているよりも“やっかい”で、重い疾患がその裏に隠れていることもあります。
30代から90代まで可能性…17項目のセルフチェックを!
「朝起きられない」「疲れがとれない」「仕事に行きたくない」…この3つを口にするようになったら、男性更年期の兆しだと指摘する医師もいます。
また、一番わかりやすいのは、「早朝の勃起」の有無です。これは性的な勃起とは無関係な“男の生理”なので、ひとつの「指標」にもなります。
30代から90代までの男性の誰にでも、「男性更年期障害」の可能性があります。
「男性更年期」の症状に関して、よく用いられている質問票の一つに「AMS(Aging malesʼ symptom)スコア」というものがあります。
まずは、セルフチェックしてみましょう。
※すべての項目を5段階で判断して、全項目の点数を加算する
*17~26点:問題なし *27~36点:軽度 *37~49点*中等度 *50点以上:重度
男性の更年期障害の原因は、男性ホルモン「テストステロン」が低下することです。
「テストステロン」は、精巣で生産され、筋肉質な体型やがっしりした骨格などいわゆる「男性らしさ」を構成するために重要な男性ホルモンの代表です。
AMSの点数の合計が高いほど、「テストステロン」が低下している可能性が高いとされています。スコアが中等度(37点)以上あるような場合は、年齢に関わらず一度診断のために受診が勧められます。
というのも、女性の更年期障害はホルモンバランスが落ち着くと症状も回復することが多いのですが、「男性更年期障害」は、待っていても何もしなければ回復しないのです。なかなか“終わり”がこないことも珍しくありません。
“男性ホルモン”減少の原因は加齢よりも、「ストレス」
男性ホルモンが減少すると、不安が強くなり、やる気・記憶力・性欲の低下が著しくなります。また、筋力や骨が弱くなります。
では、なぜ男性ホルモン「テストステロン」が減少するのでしょうか?
要因は、加齢とストレスです。
と言うと、「年だから仕方ない」と思いがちですが、実は「テストステロン」は“社会性ホルモン”とも言われます。
その減少には、加齢よりも、むしろ「社会的要因」「ストレス」、が深く関与していることがわかってきました。
仕事上のストレスも、生活環境や家庭でのストレスもあります。
強いストレスが長時間続くと、脳のほうから精巣に男性ホルモンを出す指令が出なくなり、「テストステロン」が減るのです。
強ストレスで、男性ホルモンが急激に減少することもあります。
だから30~40代でも「男性更年期障害」になることがあるのです。
また、定年後の男性が更年期障害になるケースが多くありますが、これも加齢と言うよりも、環境の変化に、身体的・精神的にもうまく対応できず、ストレスが大きくなっためと考えられます。
男性には更年期であることを認めたがらない人も多く、そういう場合、さらに大きなストレスを招きやすいのです。
“命関わる病気”リスク高まり、「認知症」つながる恐れも!
「テストステロン」が低下すると、男性更年期だけでなく、深刻な病気につながる恐れもあります。
内臓脂肪や皮下脂肪が増えやすくなった結果、肥満や糖尿病、脂質異常症、高血圧などの「生活習慣病」の原因となります。
また、「テストステロン」には血流を良くする働きもあります。
減少すると動脈硬化が進行し、心筋梗塞、狭心症、脳卒中といった命に関わる病気のリスクが高まります。
このほか「テストステロン」には、記憶をつかさどる海馬を活性化させる働きもあるので、減少することで認知機能が低下し、認知症につながるおそれがあります。
「男性更年期障害」の症状が徐々に現れてくる場合、「うつ病」と勘違いしてしまうことがあります。
確かに意欲減退や不安など、うつ病と共通する症状が多くありますが、うつ病では痩せることが多いのに対し、「男性更年期障害」では太りやすいのが特徴です。また、うつ病と比較すると、死にたくなる気持ち(希死念慮)が起きにくいとされています。
社会的な役割もって人生を楽しむ…食事で注意も
受診する場合は、泌尿器科が該当しますが、「男性更年期外来」や「メンズヘルス外来」などの専門外来を設けているクリニックならば、なお良いでしょう。
「テストステロン」値を血液検査で調べて診断します。
日本ではサブタイプである「遊離テストステロン」が8.5pg/ml以下であれば「男性更年期障害」と診断されています。
治療方法はいくつかありますが、男性ホルモンの注射・塗布や漢方薬治療などが代表的です。
「テストステロン」薬を2週間に1回、お尻や筋肉に注射するという治療には保険が適用され、費用は1回数千円程度です。軽い症状なら、2~3カ月で回復が期待できるでしょう。
保険適用となるのは、射剤のみになりますが、専門的な診察を受け、該当する場合には治療を検討されるとよいと思います。
副作用もあるため、きちんとリスクを確認したうえで専門家による診療を受けてください。
薬剤の個人輸入などでの自己判断は非常に大きなリスクとなるので、決して行わないようにしましょう。
定年後の男性が更年期障害になるケースが多いと先述しましたが、逆に、社会的な役割をもっており、趣味などで人生を楽しんでいる人は、年齢にかかわらず「テストステロン」が低下しにくいとされています。
社会の中で自分の役割を与えられたり、認められたりすると「テストステロン」は回復することがあります。
また、ニンニク・玉ねぎ・牡蠣は「テストステロン」の産生を増やし、肉類・卵・乳製品などのたんぱく質の摂取も大切です。
(かなまち慈優クリニック 院長・医学博士 高山 哲朗)