極めて強い感染力で、症状も重く、4割は入院が必要になり、死亡することもある。
しかも治療薬はなく、妊婦が感染すると流産・死産等が高い確率で起こる…それが「はしか」です。
決して“子供の病気”ではありません。
久々に「はしか」の感染者が出たことを、東京都が発表しました。
その背景には、コロナ禍にあった制限が“撤廃”されたことがあったのです。

体育館でも、患者が1人いれば数分で感染

東京都内の男女2人が「はしか」に感染していることが、5月12日に発表されました。
今回感染した2人は、同じ新幹線のグリーン車に乗っていました。
そして、インドから帰国後に感染確認された30代の男性も、同じ新幹線に乗車していました。
この男性がきっかけで、2人は感染したと見られています。

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「同じ新幹線に乗車しただけで感染」ということを、意外に思われる方も多いかもしれません。
実は「はしか」は、飛沫や接触による感染するだけでなく、空気感染もします(空気感染する病原体は、「はしか」ウイルス以外には、ほとんどありません)。

とはいえ、新幹線や飛行機の中は「空気の入れ替え」が行われています。
しかし、安心できないのが「はしか」ウイルスなのです。
それでも感染してしまうほどの、非常に強い感染力が「はしか」にはあるのです。

1人で12~18人にうつす力があると言われ、感染力はインフルエンザの数倍強力です。
体育館のような広い場所でも、患者が1人いれば数分で感染するとされています。

マスクや手洗いは効果なし…「国際空港」は高リスクの場所

しかも、手洗いやマスク着用などの対策では、まず効果はありません。

免疫がない人が感染すると、ほぼ100%発症します。

発症すると、39度を超える高熱が出て、全身に発疹ができます。
重症化すると脳炎を引き起こし、まれに死亡することもあります。

実は、日本は2015年にWHOから「はしか」は【排除状態】にあると認定をされています。
にもかかわらず、今回のように感染者が出るのは、内外の海外渡航者がウイルスを日本に持ち帰るからです。
新型コロナの影響で、海外との行き来が数年間ストップしていましたが、それが再開されたことで、ウイルスが持ち込まれる可能性が高まっています。
今回も、インドに渡航した人から感染が拡大しました。

ですから、多くの海外渡航者が行き来する国際空港は、最もリスクの高い場所のひとつなのです。

治療薬はない…妊娠中に感染すると流産・死産も!

症状も軽いものではありません。
感染すると約10日後に発熱や咳、鼻水といった風邪のような症状が現れます。

熱が2~3日続いた後、39℃以上の高熱と発疹が出現します。

さらに「はしか」患者の30%に合併症がみられ、その40%が入院を必要とします。

肺炎や中耳炎を合併しやすく、患者1,000人に1人の割合で脳炎が発症すると言われています。
死亡する割合も、先進国であっても1,000人に1人とされています。

そして、特に注意が必要なのは妊婦です。
妊娠中に「はしか」に感染すると、流産・早産・死産が3~4割もの確率で起こるので注意が必要です。

さらに、「はしか」ウイルスに直接効く薬、“特効薬”はありません。対症療法として、解熱剤、抗生剤が処方される程度です。

入院が必要になることも多いのですが、強力な感染力のため、隔離病室がないと入院できません。

30~50歳代にワクチン「空白世代」

では、どのように予防すればいいのか。
何といっても、2回のワクチン接種が予防に有効です。

定期接種の時期は1回目は1歳のとき、2回目は小学校就学前の1年間です。

そうすると、「はしかの予防接種は子供の頃に受けたはず。なのに、何故感染してしまうのだろう?」と不思議に思われるかもしれません。

実は、はしかワクチンに関して“空白世代”とも言うべき年代があるのです。
「はしか」ワクチンは、1978年に定期接種になったものの、当初は1回接種でした。
しかし、「はしか」ワクチンは、1回接種では十分な免疫がつかないことや、年数を経ると免疫が低下することがあり、2回接種で確実な免疫がつくとされています。

2回接種制度が始まったのは、2006年からです。(ただし2007年に「はしか」大流行があり、翌年から5年間、1990年~1999年生まれの人には追加接種の機会が設けられました)
また、1993年頃に接種率が一時低下した期間もありました。

といった経緯から、 注意が必要なのは30~50歳代くらいの世代です。「はしか」ワクチンを1回しか接種していない人もいて、免疫がある人・ない人が混在していると思われます。

ワクチン接種を希望される場合、自費診療となります。医療機関によって多少違いますが、数千円から1万円程度です。助成金が出る自治体もあります

なお、妊娠している女性は接種できません。妊婦さんと同居する方で、「ワクチンの2回接種が明らかでない」場合は、対応について、医師に相談されてください。

5月から夏の旅行シーズンは要注意

「はしか」は、5〜6月に感染が広がることが多く、まさに今の時期は注意が必要です。

さらに、夏の旅行シーズンに海外に行く方も多いと思いますが、新型コロナ対策が優先され、「はしか」ワクチン接種まで手が回っていない国も多くあります。

感染者と接触があった時点から72時間以内にワクチンを接種すれば、「はしか」の発病を防ぐ(あるいは軽症化する)ことができる場合があります。そうした場合も医師にご相談ください。

日本では、「はしか」は長らくほとんど症例がなく、ベテランの医師も診る機会がほぼありませんでした。
もし発疹が出ていれば、皮膚科の専門医に診てもらうと、より診断制度が上がると期待されます。

(かなまち慈優クリニック 院長・医学博士 高山 哲朗)

高山哲朗
高山哲朗

日々の診療では患者さんの健康維持・増進により深く貢献できるよう努めております。的確な診断、共に疾患をコントロールすること、日々の健康を管理し病気にならないようにすることは内科医の責務と考えています。常に学ぶこと、根拠に基づく説明を分かり安く行うことを心がけてまいります。
慶應義塾大学病院、北里研究所病院、埼玉社会保険病院等を経て、平成29年 かなまち慈優クリニック院長。医学博士。日本内科学会認定医。日本消化器病学会専門医。日本消化器内視鏡学会専門医。日本医師会認定産業医。東海大学医学部客員准教授。予測医学研究所所長