2022年3月、富山市の芝園中学校で行われたマスクなしの卒業式。入場から退場まで、合唱中もマスクを外して行われた。

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あれから3カ月あまり。マスク着脱の議論が活発になる中、教育現場の「いま」を取材した。

密を避ける指導続け2年…新たな様式が「日常」に

2022年6月1日、芝園中学校。

星野悟志教諭:
もうだいぶ暑くなってきたので、運動するときはマスクを外してOK。むしろマスク外して行ってください

高瀬優子教諭:
マスク外していいから、大きい声で

体育の授業中、教師が生徒に呼び掛けていたのは「マスクの着脱」について。

高瀬優子教諭:
結構嫌がります。とにかく命を守るために、熱中症予防のために(マスクを)とろうと話はするんですけど、それでもなかなか

星野悟志教諭:
小さいころから「マスクを着けなさい」と指導を受けてきた子たちなので、マスクを外すことに関して、結構 抵抗を持っている子も何人か。外していいよと言ったときに外す子もいれば、すごく抵抗を示す生徒も。あまり無理には言えないので。外さない子には、無理に外せとは言いづらい

新型コロナウイルスが日本で猛威を振るい始めた2020年3月、全国一斉休校となってから、学校生活が本格的に再開したのが6月1日だった。それから、丸2年がたった。

3年A組・岡本奎一教諭:
この黄色いテープは2メートル。ソーシャルディスタンスって、これだけの距離だということを実際に見てもらう。ここにいたら、相手はここにいないと2メートル、ソーシャルディスタンス取れていると言えないと、なるべく視覚化した。
当時は、校舎のいろいろなところに掲示物が作られた。中学生はどうしてもじゃれ合いとか、距離近くなったりすることが多いので、それをまずはないようにしようということから始まった

密閉・密集・密接の“3密”となってしまう場面が多いといわれる教育現場。芝園中学校では当時、密を避けるため、廊下にも教室をつくり、1クラスを二手に分けて授業を実施。

マスク着用や手指消毒など新たな生活様式が取り入れられ、指導が徹底された。その新たな様式を、「日常」として学校生活を送ってきたのが今の3年生だ。

熱中症対策でマスク外すよう指導も…生徒の声は

末松信介文科相:
子ども達が、安心な環境の中で学ぶことができるように、メリハリをつけたマスクの取り扱いのお願いをしたい

文部科学省は5月末、熱中症のリスクが高まる季節を前に、新型コロナ対策の基本的対処方針の変更をふまえ、学校現場でマスク着用の必要がない場面について、体育の授業では屋外に限らず、体育館やプールも対象となることを全国に通知した。
登下校についても、会話を控えるように注意しつつ、マスクを外すよう指導するなど、熱中症対策の優先が求められた。

しかし、「マスクがある生活」が日常となっている生徒たちの考え方はさまざまだ。

生徒:
マスクが必ずついているものみたいな意識になってきていて、逆に外すことに抵抗がある。登下校は外せないというか、逆に人の目が怖くなっている。

(Q.人の目が怖いというのは、外していることをあっと思われるのが嫌?)
生徒:
多分そうだと思う。こんな顔だったんだみたいな

生徒:
マスクありの規制がかかっているのも、マスクありの状態から始まったから、これが中学校生活なんだなみたいな。(マスクを着けていて感染者が)下がってきたりしたから。取らない方が、俺はいいんじゃないかと思う

(Q.体育のときにマスク焼けが気になったが、それでも外せない?)
生徒:

外したいと思います。体育大会の時に練習は距離が近いので、つけなきゃいけないなと思って。外したいっちゃ外したい。苦しいから

大阪や兵庫では6月に入り、体育大会や練習中に多くの生徒が熱中症とみられる症状で救急搬送される事態が発生。
大阪の学校では、すべての競技でマスクを外すよう呼び掛けていたという。

大阪女学院中学校・高等学校 山崎哲嗣副校長:
目測で言うと(マスクを外している生徒は)多い時点で40%くらい。抵抗がある感じがします

マスク外せる場面で“外せない”事態に危機感

富山大学附属病院の小児科医・種市尋宙医師は、マスクを外せる場面で、外せない事態に危機感を抱いている。

富山大学附属病院 小児科・種市尋宙医師:
感染対策としては確かに重要な方策ではあるので、やらなきゃいけないときはもちろんやらなきゃいけないが、外せるときに外さないといけないですし。
僕らはすごいお題を子どもたちや教育現場に投げていて、「場面に応じて外してください」ということはとても難しくて、政府がマスクを外出時、屋外で外していいということを言っているが、多くの大人たちは外していない。それは、場面に応じて外すことができないから。
ですので、現状子どもたちが今、外せなくなっている背景には、おそらく2年前、外せなかったのとはちょっと訳が違うところが出てきていて、問題は複雑になっている。
どうやってこれを日常に戻していくのか、すごく大きな課題で、でも取り組み続けないと、より問題が深くなっていってしまう

種市医師は、県内で複数児童の感染が確認された第1波のときから、子ども達の治療にあたっている医師の1人。
富山市の教育委員会とともに、新型コロナの対策検討会議を立ち上げ、コロナ禍となった2年前の夏から、登下校時にはマスクを外すよう訴えるなど、教育現場における過度な感染対策を適正化する取り組みを進めてきた。

2022年3月には、この2年間蓄積された医学的知見とともに、直近の感染状況などを分析して、卒業式の指針を作成。
それをもとに富山市内では、芝園中学校を始め複数の小中学校が卒業式でマスクを外し、合唱を行った。
卒業式から2週間、種市医師が県内の卒業生たちの感染状況を調べた。

卒業生は、小中学生合わせて約6,800人、調査の結果、クラスターは1件も起きなかった。

感染対策の緩和には慎重な意見もある中、種市医師は検証を繰り返しながら、かつての日常を少しずつでも取り戻していくことが必要だと話す。

日々発達する子ども達…マスクで見えない弊害とは

富山大学附属病院・小児科 種市尋宙医師:
子ども達は日々発達している。大人と違うのは、明らかにその点。色々な経験をして人間形成をされていくが、その中でマスクによって、多くのコミュニケーションで見えない弊害が起こっていることは感じている。
少しずつ緩和をしていって、その都度データをとって、何ができて何ができないかを見極めていくことが大事だと思いますし、本当にその常識は常識なのかということを1つ1つ検証していかないと、本当の常識は見えてこないんじゃないか

コロナによって、制限のある学校生活を送ってきた3年生たち。秋には修学旅行、そして受験、卒業を控える。
岡本先生は、子ども達が輝く1年にしたいと話す。

芝園中学校3年A組担任・岡本奎一教諭:
子どもらが輝くじゃないが、自分が望んでいる思いや今後の目標、人によっては夢であったり、そういう思いを、目の前1つ1つのことをがんばる目標でもいいが、どんな形であってもプラスの気持ちで「よし」って、笑顔でいけたら何より。子どもらにとって、いい終わり、次のスタートを迎えられたら自分はそれが一番かな

新しい生活様式が日常となっている生徒たちにとって、マスクを外していい場面を提示するだけでは、外せない現実がある。
どうしたら安全にマスクを外せるのか。教育現場の模索が続いている。

(富山テレビ)