仙台市青葉区中江。1938年の創業から87年にわたり、地域の心と体を温め続けてきた銭湯「花の湯」が、今、再生に向けて大きな一歩を踏み出している。
2025年2月末をもって長期休業を余儀なくされていた花の湯。
店主の前田有作さんは「必ず復活してください」という常連客の願いを背負い、挑戦を続けている。
錆びついた「心臓部」と、突きつけられた現実
休業から約1年。店主の前田さんに案内されたボイラー室には、茶色い錆に覆われた「花の湯」の心臓部ともいえるボイラーが鎮座していた。
花の湯 店主 前田有作さん:
かなり、やばい感じですね。この茶色いのが全部、錆…いやなんかかわいそうだわ。
前田さんが漏らした言葉は、銭湯が直面している現実を物語っている。
1993年度には17軒あった仙台市内の銭湯だが、設備の老朽化や燃料高騰の煽りを受け、現在はわずか2軒。2025年9月には、同じく歴史のあった「喜代乃湯」が廃業した。

銭湯の入浴料金は「物価統制令」に基づき都道府県ごとに決められていて、2025年12月には料金が改定された。
大人(中学生以上) 480円→500円
中人(小学生) 160円→180円
小人(未就学児) 90円→100円
ようするにこの物価高の中、小学生以上で20円、未就学児で10円値上がりしただけ。
経営努力だけではカバーしきれない構造的な課題がある。
花の湯 店主 前田有作さん:
どんどん物価が上がっている中、重油もすごく値上がりをしていて、(小学生以上で)20円上げていただいたんですけれど、やはりこれでは利益は厳しい。
必要資金1000万円と「民間の力」
復活に必要な資金は、ボイラーの交換や配管、タンクの更新を合わせて約1000万円。
しかし、行政からの助成金は、ボイラー代600万円に対しわずか76万円に過ぎなかった。
花の湯 店主 前田有作さん:
それはどうしようもなくて、だから民間の力でやるのが一番いいんだろうなって思ったんですよね。
前田さんは、クラウドファンディングでの資金調達を決断。同時に、休業中の静かな銭湯に「新たな命」を吹き込むプロジェクトを開始した。
きっかけは、休業後の6月に開催したワークショップで市民から出た「銭湯絵(壁画)」の提案だった。
浴室を彩った「蔵王のお釜」と「松島」
壁画制作を担ったのは、東北芸術工科大学で洋画を学ぶ学生たちだ。
「美術を社会に向けてどう生かしていくかという活動にもつながる」と、大学側の協力も得て、縦2メートル、横8メートルの巨大なキャンバスに筆が走った。

3日間に及ぶ制作期間。夜遅くまでの作業を経て、風呂の壁には見事な風景画が描き出された。
男湯には、青を基調とした、力強く松が根を張る「松島」の海。女湯にはピンクを基調とした、朝日に染まる松島と春の桜。
そして両浴場をまたぐように中央に配置されたのは、銭湯の定番である富士山ではなく、宮城を象徴する、「蔵王のお釜」。
花の湯 店主 前田有作さん:
すごいですね…こんなすごい画になるとはホント思わなかったし、この芸術に立ち会える瞬間っていうのがうれしいですよね。すばらしいアート、芸術。この画があったらみんな喜んでまた来てくれるかなって思いますね。お客さんにいいプレゼントが用意できましたって感じですね。
完成した画を前に、前田さんの表情は驚きと喜びに満ちていた。
「再開」を信じて繋ぐバトン

学生たちにとっても、この経験は特別なものとなった。
壁画を製作した学生:
これだけデカいと、いつもは手首だったり腕を使って画を描いているが、体を使って描くので疲れました。楽しかった、いい経験。
花の湯は目標金額1000万円のクラウドファンディングに挑戦している。集まった資金は、あの錆びついたボイラーの更新などに充てられる予定だ。
新たな壁画に湯煙が立ちのぼり、常連客の会話が戻るその日まで。
前田さんは早ければ2026年4月の営業再開を目指し、走り続けている。
