臨時国会が閉幕し2025年が終わろうとしている。夏の参院選での自民党大敗、そして首相退任。現在は一議員として地元の鳥取と東京を往復する日々を送る石破茂前首相に、戦争に対する思い、高市政権が進める外交政策、そして「保守」のあり方について語ってもらった。(全2回の2回目)

「戦争は偶発的なことから始まる」

――高市首相は11月に「台湾を完全に中国・北京政府の支配下に置くようなことのために、戦艦を使って、そして武力の行使も伴うものであれば、これはどう考えても(武力行使が可能な)存立危機事態になり得る」と答弁しました。この発言は波紋を呼び、日中関係が冷え込んでいます。

石破前首相(以下、石破): まあ、今「戦艦」という言葉は使わないので、たぶん「戦闘艦」という意味なんでしょうね。そんな言葉尻をとらえる気は全くありません。存立危機事態、集団自衛権の行使となると、どの国に対して日本は集団的自衛権を行使して共に武力の行使をするかというとアメリカなんでしょうね。で、どうしてそんな事態が起こったのという話をすると、どんどん具体的な話になっていっちゃうわけですよね。戦争と言うのは古今東西、歴史をみても理由を説明できるものはほとんどない。だいたい偶発的なことから戦争は始まる。

(第1次世界大戦のきっかけとなった)サラエボ事件もなぜあんな大戦争になっちゃったのか説明はできないですよ。経済関係が強ければ戦争にならない。偶発的なことで起こる。だって戦争してもどこも得しないでしょう。(アメリカの)トランプさんはとにかく戦争大嫌いですからね。中国だって戦争するメリットは何かということですよね。偶発的に何かが起こるということを避けないといけないということになると、やはりトップ同士の信頼関係、いつでも話ができる関係というのがとても大事じゃないかと私は思っています。

私が政権を担った1年間、アメリカとは「トランプ関税」で本当にいろんな交渉を赤沢さんを中心にやってきた。関西万博もやっていた。多くの国から首脳がやって来るアフリカ開発会議もやっていた。インドとの関係も大事だと。それから中国は主に政党、与党の自民・公明で一生懸命努力をしてきた。それが途絶えるというのはやはりいいことではないですよね。もちろん国が違うんだから国益も違う。そのことは十分わかったうえで話し合える状況というのは常に維持しないといけないし、発展させないといけない。

高市首相
高市首相
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日韓も一時期、関係がものすごく悪かったじゃないですか。けれども岸田さんの時代に当時の尹大統領と会談し、私も3カ月間で3回、李大統領と会談しました。首脳同士の信頼感、信頼感まで行かなくても偶発的な紛争を避けるための努力はしていかないとならないと私は思っています。

代議士として「常に原点に戻る」

――来る2026年、石破さんご自身はどのような役割を果たしていきたいですか。

石破:自分が知らないことはまだたくさんあるってことですよね。例えば朝鮮半島の歴史、戦後は韓国と北朝鮮で全く違いますよね。台湾もそう。清から割譲を受けて日本の統治が続きましたが、その間に何があったのだろうと。九州も主要都市が爆撃を受けましたが、台湾でも台北や台中、台南で爆撃を受けています。そういう歴史でも経済でも知らないことはたくさんある、そういうものをきちんと認識したうえで、今後、人口が減っていく日本をどうしていくか。全国でもっとも人口の少ない鳥取県の選挙区にいるわけだけど、若い人や女性に選ばれる地方って何だろうと。それは福岡が1つのモデルになるんでしょう。そういう地方創生は「行政がやりっぱなし、民間は頼りっぱなし、市民は全然無関心」だと絶対に失敗するんだよね。ましてや東京のシンクタンクが描いたような総合戦略なんてものがうまくいくわけはないと思っています。

「自分が知らないことはまだたくさんある」
「自分が知らないことはまだたくさんある」

地方創生にゴールはないけれども、それにめどをつけられなかったというのは政権1年間で最大の力不足だったというのがありましてね。総理までやったので、何も言わずに政権を見守るというのも1つのあり方かもしれないけど、なんであの戦争に突っ込んでいったんだと考えたときに、やはり大きな声や精神論が幅を利かせ、議会がものを言わなかったというのが大きな理由だと思う。批判とか意見とかしないほうが楽ですけど、だったら代議士の意味ないよねと、常に原点に戻らなきゃいかんと思っています。

単独インタビューに応じる石破前首相
単独インタビューに応じる石破前首相

高市首相へ…“寛容さ”こそが保守の本質

――最後に、支持率の高い高市政権へメッセージをお願いします。

石破: 高市総理は一生懸命やっておられますし国民の支持も高い。だけども少数意見や海外の意見、そういうものに常に耳を傾けるというのは大事なことじゃないだろうか。われわれ自民党は3年3カ月間、野党だった時期があった。当時の谷垣禎一総裁のもとで政調会長だった私が学んだのは、「自分たちの意見に足りないところや間違いがあるんじゃないか」ということでした。いろんな主張に謙虚に耳を傾ける寛容さが保守の本質だと思っているんですよ。ですから、そういうものを持って国政をやっていただきたいと思っています。

テレビ西日本
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