2025年は“新たな防衛の拠点”が強化された年だった。有明海沿岸の佐賀空港西側に陸自衛隊の佐賀駐屯地が開設され、千葉・木更津に暫定配備されていたオスプレイの移駐が完了。訓練飛行が日夜行われている。
木更津から佐賀駐屯地へ17機を配備
佐賀空港にほど近い有明海沿岸から東の空を見上げると、ある機体が近づいてくる。
陸上自衛隊のオスプレイだ。

2025年7月9日の午前10時22分。佐賀駐屯地に配備される1機目が、独特の重低音を響かせながら佐賀空港の滑走路に着陸した。

千葉県の陸上自衛隊・木更津駐屯地に暫定配備されていたオスプレイ。国は11年前、佐賀への配備を要請していた。
防衛省は佐賀市に「佐賀駐屯地」を建設。
そして2025年7月9日。オスプレイの配備が始まった。

佐賀駐屯地が開設されたのは有明海沿岸の佐賀空港西側。オスプレイの離着陸には佐賀空港の滑走路を使用する。
オスプレイは木更津から佐賀駐屯地に順次配備され、8月中旬までに17機すべてを配備する計画が進められた。
配備されたオスプレイ 初の訓練飛行
7月28日、佐賀駐屯地周辺で初めての訓練が行われた。
オスプレイは午前10時過ぎ、佐賀空港の滑走路から上空へ舞い上がる。

東へ飛び立ったオスプレイは、その後南に旋回して有明海方面に進み、有明海の上空を2周して約30分後に再び滑走路へ着陸した。
木更津駐屯地のオスプレイは8月中旬までに17機すべてが佐賀へ移駐され、配備計画は予定通り完了した。
「南西地域の防衛強化は喫緊の課題」
佐賀駐屯地の開設記念式典が9月7日に行われた。
中谷防衛相(当時)は、オスプレイと陸上自衛隊の隊員を前にオスプレイ配備の意義を述べた。

中谷防衛相(当時):
オスプレイの移駐完了は我が国の防衛にとって極めて重要なものであり、ここでの自らの任務に自信と誇りを持ってください

中谷大臣は「南西地域の防衛体制の強化は喫緊の課題で、新たな防衛の要として期待されている」と部隊の重要性を強調した。

一方、佐賀県の山口知事は「佐賀空港の自衛隊による使用については10年以上かけて丁寧に対応してきた」と話し、今後はオスプレイの安全な飛行を求めたうえで佐賀空港の発展にも期待を寄せた。

佐賀県 山口知事:
新規路線の就航・増便を実現するためには滑走路の延長による運行エリアの拡大が必須です。これからも中谷防衛大臣、防衛省の皆様との協力のもと計画を実現させてまいります
目達原、大村へも飛行し離着陸訓練
陸上自衛隊・佐賀駐屯地への配備がすべて完了してから約1週間後の8月20日。オスプレイは佐賀・吉野ヶ里町の目達原駐屯地に飛行し離着陸の訓練を行った。
この日は2機のオスプレイが九州の地形に慣れるための訓練を行い、長崎県の大村駐屯地にも飛行した。2機のオスプレイは約2時間フライトし、鹿島市の海上などを飛行する機体も確認された。
夜間訓練開始…夜空に舞うオスプレイ
さらに新たな訓練がスタートする。
9月29日、陸上自衛隊のオスプレイが佐賀駐屯地に配備されて以降、初めて夜間の飛行訓練が行われた。
機体の上に現れた緑色の2つの光の輪。
オスプレイが夜間の安全のために点灯させている回転翼の先端のライトだ。

この日は有明海の上空を約30分飛行したあと一度佐賀空港の滑走路に戻り、再び飛び立つ様子が確認された。
夜間の飛行をめぐっては地元から安全性や騒音を懸念する声も上がっている。
オスプレイ配備に反対、不安の声
オスプレイの配備には反対や不安を訴える声も根強くある。

佐賀駐屯地周辺で初めて訓練が行われた7月28日、佐賀駐屯地の正門前ではオスプレイ配備に反対する市民団体がオスプレイと駐屯地の撤去を訴えた。

また地元の住民からも「今まで事故が起きている。原因もはっきりわからず、うやむやになっているので、そういう事故が起きないか心配」という声もきかれた。
ノリ養殖など有明海の漁業への懸念も
佐賀駐屯地の開設で有明海の水質への影響が懸念されている。このため「排水対策施設」が建設された。
生活排水や雨水を有明海の水質に影響が出ないよう塩分濃度を調整して排水するもので、通年ではなくノリ養殖の時期に合わせて稼働される。
有明海の水質などを調査している佐賀県有明水産振興センターによると、排水対策施設が稼働した10月前後で水質に変化はないという。
約420人の隊員 地域との共生へ
オスプレイの配備に伴い約420人の隊員が佐賀駐屯地に移駐した。“地域との共生”は大きな課題だ。

中谷防衛相(当時):
佐賀を愛し、佐賀に愛される駐屯地となりますように皆さんでこの新しい駐屯地を育てていってください

隊員は地元の祭りや清掃活動などに積極的に参加し地域の住民との交流を深めている。

今年10月、佐賀市川副町の海童神社で行われた秋の例祭では神輿巡行に約20人の隊員が参加した。

伝統の祭りは高齢化などで担い手が不足している。隊員には地元の文化を守っていく新たな仲間になることが期待されている。
オスプレイ配備で変わった佐賀の風景
開設から5カ月が経った佐賀駐屯地。日々、オスプレイが飛び立ち訓練を行っている。のどかな平野が広がっていた有明海沿岸の風景は大きく変わってしまった。

駐屯地の中では現在も建設工事が続いていて今後、体育館と倉庫ができる予定だ。

防衛省は今後、吉野ヶ里町にある目達原駐屯地のヘリ50機も佐賀駐屯地に移駐する計画で、“新たな防衛の拠点”としての役割はさらに強化されることになる。
