過剰摂取すると手足がけいれんすることから「ゾンビたばこ」とも呼ばれている違法薬物「エトミデート」。今年は沖縄県を中心に摘発が相次ぎ日本全国で蔓延する恐れが指摘されている。さらに、“合法”と謳っているが、実際には違法な薬物の成分が含まれたクッキーやグミなどに手を出した結果、病院に搬送される若者も後を絶たない。

こうした“新種のドラッグ”の摘発が目立つ一方、従来取り締まりが行われてきたコカインの摘発が今、急増している。その中心にいるのが若い世代。使い方によっては死に至る危険性もあるコカインがなぜ急激に広がりつつあるのか、その背景を紐解いていく。

覚醒剤より危険性が高い一面も

コカインとはコロンビアやペルーなど南米で栽培されるコカの木の葉から抽出されるもので、粉末状のものを鼻から吸引したり、たばこのように吸ったりして使用される。

コカインは少量の使用でも疲労感がなくなる、多幸感が得られるなど中枢神経を興奮させる作用があるとされているが、過剰に摂取すると現実にないものが見える幻覚症状が現れ、心筋梗塞や放置すると短時間で死に至る致死性不整脈になり死亡する例もあるという。

(画像はイメージ)
(画像はイメージ)
この記事の画像(7枚)

元関東信越厚生局麻薬取締部の主任鑑定官で現在は東京大学大学院薬学学系研究科の研究員である牧野由紀子さんは、コカインの大きな特徴は「効果を感じる時間にある」という。

牧野さんによるとコカインは「吸引してから効果が出るまで1~3分、効果が続く時間は20~45分と短時間で効果が表れて効き目がなくなるのが特徴」で、効果が最大6時間続くとされる覚醒剤に比べ短時間に繰り返し使ってしまうリスクがあり、薬物中毒になる危険性が高いという。

また、コカインは一定の量を超えると死に至る可能性がある「さじ加減が非常に難しい薬物」だと指摘。
専門家でない一般の人はコントロールができず、刺激を求めて知らず知らずのうちに過剰に摂取してしまうため、「効果が持続する覚醒剤よりも危険性が高い一面がある」と警鐘を鳴らす。

検挙者数過去最多…7割は20代以下

警視庁が過去10年にコカインを巡って検挙した人数を見ると、それまで100人前後で推移していたものが2024年に約270人と急増、2025年は11月末時点ですでに約350人と過去最多を更新している。

コカイン検挙者数(警視庁)
コカイン検挙者数(警視庁)

この約350人のうち20代以下が約230人と全体の7割近くを占めていて、若年層への蔓延が危機的な状況となっている。
過去10年では外国人の検挙数が多かった年もあったが、現在は日本人ユーザーがメインとなっているほか、2024年に検挙された約270人のうち200人ほどが「初犯」という驚きのデータも出ている。

(画像はイメージ)
(画像はイメージ)

強い依存性があり“ハードドラッグ”と呼ばれるコカインだが、検挙人数や年代を分析すると「若年層かつ初めて薬物を使う人が多い傾向」にあることが分かる。
また、再犯者の中でも過去に大麻で検挙された人の割合が半数以上を占めていることから、“ゲートウェイ(入り口)ドラッグ”と呼ばれる大麻を使用した人が、より危険性の高いコカインに手を出してしまうケースも少なくないと考えられる。

「コカインは大丈夫」という誤った認識が広がる

初めて手を出すにはハードルが高い薬物だと思われるが、若者はなぜ手を出してしまうのか。
検挙された人たちは「勧められるがまま興味本位で」「友人がテンション上がって高揚感を味わっているのを見て興味を持った」などと話していて、「クラブで外国人からもらった」「バーでお酒を飲みながら鼻から吸った」と軽い気持ちで使ったという声が多く聞かれた。

効果については「酒とともに使い頭がぐらんぐらんする」「お酒が進みその場を更に楽しむことができる」などと刺激を楽しむため使うほか、「心のドーピング、精神状態を安定させてくれるもので落ち着く感じで心地が良い」「テンションが上がり前向きな考え方ができるようになる」と精神的な依存を求めていることが分かる。

(画像はイメージ)
(画像はイメージ)

また、「覚醒剤は絶対にダメなのは分かるが、コカインはそれほど悪いものという認識が低いと思った」「LSDは統合失調症になると聞いたし、覚醒剤は体形が変わると聞いたので怖いからやらないが、コカインはクラブで主流だから大丈夫」と他の薬物に比べて安全だという誤った認識が広がっている。

日本は“ターゲット”の可能性

コカインの検挙数が増えているのに伴い、近年日本に密輸されるコカインの摘発も急増している。羽田空港や成田空港を管轄する東京税関によると2025年の押収量は去年の倍以上となる100キロを超え過去最高を更新する見込みである。

東京税関で押収されたコカイン
東京税関で押収されたコカイン

密輸の手口で多かったのは体内に隠して持ち込むというもの。
観光客を装った運び屋がラップなどで包んだコカインを飲み込んで体内に隠して入国する。ほとんどがブラジルから“闇バイト”で成功報酬を求めて指示を受けてきた運び屋によるもので、東京税関の幹部は「半年程度の間に “コカインの飲み込み密輸”が集中したことから、密輸組織が日本をターゲットにしていた可能性がある」と指摘した。

アジアのコカイン市場が急速に拡大

一方で、コカインが脅威となっているのは日本だけではない。
国連薬物犯罪事務所(UNODC)が2025年に公表した報告書によると、2023年の世界全体のコカイン使用者は2500万人、違法生産量は3708トンといずれも過去最高を記録。

(画像はイメージ)
(画像はイメージ)

コカインはアメリカやヨーロッパが主な消費国だが、近年はアジアでの摘発も増加。アジアでの押収量は2013年から2023年で5倍に急増していて、コカインの消費国・密輸の中継地として急速に拡大している。
密売人が記録的な生産量の波に乗り、従来の消費国からアジアなどの新たな市場に進出していることから、日本にも魔の手が迫っていると考えられる。

警視庁は取り締まり強化急ぐ

警視庁薬物銃器対策課の河内良夫課長は「コカインについては南米における密造量が増加しているとの情報を入手していて、日本国内の若年層の検挙件数が急増していることと相まっていることから、麻薬カルテルが日本をコカインのマーケティングターゲットとして狙う危険性が高まっているものと警戒している。警視庁としては、さらなる乱用者への取り締まり強化や関係機関と連携した水際対策、都民・国民への広報啓発活動を推進していく」とコカイン需要の増加への危機感を示す。

近年、薬物はSNSで簡単に入手できる手軽さから若者に馴染みやすくなり、危険性の認識が薄まっていることが問題である。
若者たちが一時の興味や誘惑で人生を台無しにしてしまうことがないよう、危険性の周知や流通を食い止めるための対策が急務となっている。
(フジテレビ社会部警視庁担当 北山茉由)

北山 茉由
北山 茉由

フジテレビ報道局社会部記者。警視庁クラブに所属し、捜査二課と暴力団対策課を担当。