国内有数の繁華街、新宿・歌舞伎町。中でも“トー横”は、行き場のない若者たちが集まることで知られているが、同時に、未成年者を危険にさらすトラブルも後を絶たない。

風邪薬などを大量に摂取する「オーバードーズ」のほか、トー横の若者らを支援する団体「日本駆け込み寺」の元事務局長の男がコカインの所持容疑で逮捕された事件では、一緒に逮捕された女が「オーバードーズするくらいなら、コカインや大麻を使った方が良いと(元事務局長に)勧められた」と供述したことも報じられ、その“身近さ”に衝撃が走った。

なぜトー横に集まる若者は、危険な薬物に手を染めてしまうのか。歌舞伎町で検挙・補導した事例を捜査関係者に取材し、“少女たちと薬物の境界線”について考える。

友人関係に悩み“トー横”へ…コカイン渡され「鼻やらない?」

2025年3月、コカインの所持などの疑いで逮捕された10代の女性は、進学した高校でスポーツに打ち込んでいた。しかし高校生活を続けていくうち、友人関係で悩み途中で退学。家庭や地元に居場所がなく3年前から歌舞伎町の“トー横”エリアに入り浸るようになった。

トー横に行くうちにできた同年代の友達から、袋に入ったコカインを渡され、「鼻(コカインの隠語)やらない?」と言われたことなどをきっかけに、薬物に手を染めた。以降、友人関係で悩んだ時に心の安定剤として薬物やオーバードーズを繰り返したという。

「自分が嫌になった時に使った」14歳少女が覚せい剤使用

14歳の中学生という若さで、覚せい剤の使用容疑で逮捕された少女もいる。

少女は中学で“悪い先輩”とつるむようになり、徐々に不登校になってトー横に出入りするようになった。家にも帰らず、ラブホテルを転々とする日々。そこで出会った男に、違法薬物を勧められた。これまでに使ったことのある薬物は大麻、MDMA、コカインと、ありとあらゆる種類の薬物を使用するようになった。外国人の売人から買うこともあったという。

ある日、男から「ピンクの錠剤」を手渡され、MDMAとの説明を受けたが、実際は覚醒剤だった。少女はそれがきっかけで逮捕された。警察官に対し、少女は「人間関係が悪くなったときや、自分が嫌になったときに使っていた」と話している。

「合法」うたい、大麻・コカイン入り吸引器具が無料配布

2人の少女に共通しているのは、「人間関係の悩み」だ。検挙される若者の理由の多くは悩んだ時に気持ちを落ち着かせたい、という、思春期なら誰にでも訪れる悩みでもある。

逮捕された少女たちのように悩みを抱える若者が集う“トー横”エリアでは容易に違法薬物が手に入ってしまう環境にある。その危険性が増えているのはトー横だけにとどまらない。

夏休み明けに“トー横”で行われた一斉補導の様子(2024年9月)
夏休み明けに“トー横”で行われた一斉補導の様子(2024年9月)
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2024年に警視庁が東京都内で未成年の少年少女が違法薬物で検挙・補導した人数は225人と、過去10年間で最も多い人数となっている。半数以上の122人が大麻、覚せい剤が32人だが、中でもコカインなどの「麻薬」は71人。過去10年を見ても右肩上がりで、2年前の約3倍だ。

トー横の少年少女が薬物に手を染める現状に、ある捜査幹部は「歌舞伎町では大麻やコカインなどが入った吸引器具が『合法です』とうたって無料配布される実態があり、薬物に味を占めた利用者がまた買い求めるという事案も確認されている。薬物が興味本位で手に入れられる環境になっていることは非常に深刻だ」と話す。

行き場のない、居場所のない若者が集まるトー横で、一瞬の不安から逃れるための違法薬物の危険性と代償はあまりにも大きい。そして、薬物による負のスパイラル狙う、悪質な大人たちから守る仕組みとサポートが急務となっている。
(フジテレビ社会部警視庁担当 北山茉由)

北山 茉由
北山 茉由

フジテレビ報道局社会部記者。警視庁クラブに所属し、捜査二課と暴力団対策課を担当。