輸入品がほとんどを占める「バニラビーンズ」を、長崎県大村市で栽培し販売している男性がいる。取引先と直接やり取りし、その要望を栽培に生かす。国産だからこそできるバニラ作りに密着した。

500株の国産バニラビーンズ

バニラの甘い香りがする「アイスソルベ」。

バニラビーンズを使ったアイスソルベ
バニラビーンズを使ったアイスソルベ
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甘い香りの正体は…「バニラビーンズ」。長崎で栽培されている。

長崎県大村市の農園で栽培
長崎県大村市の農園で栽培

手がけているのは大村市の農園。「YAMATO VANILLA BEANS」代表の清水大和さん(38)が6年前から栽培している。

室温20℃前後に保たれた800㎡の温室で、約500株のバニラビーンズを育てている。

これがバニラの実
これがバニラの実

バニラはラン科の植物で、人工交配をすることで実がつく。果実を丁寧にゆっくり時間をかけて発酵させることによって、独特で芳醇な甘い香りが生まれる。

栽培方法は17世紀ごろから変わっていない。1月から2月の収穫に向け、12月はつる全体に光があたるように剪定している。

バニラを栽培する清水大和さん(38)
バニラを栽培する清水大和さん(38)

「太くいい枝を見つけて、どこに花を咲かせるかを決める。自分で根を張ってしがみついていく作物なので」と清水さんは説明する。

自分だけの香りを

清水さんの農園では、祖父の代からブドウを、父の代から胡蝶蘭を手がけている。自分の代でもこれまで培った技術を生かした新しい作物に挑戦したいと考えていた清水さん。

新しい作物に挑戦したかった
新しい作物に挑戦したかった

胡蝶蘭と同じラン科で実を付け、ブドウの技術を取り入れられる「バニラ」にたどり着いた。

ブドウの肥料を使い、植物体として元気に育つような栽培方法を取り入れ、他にはない技術を使いながら育てている。

自分だけの香りを出したい
自分だけの香りを出したい

「国産が希少性があることも売りの1つだが、ビーンズの良さで勝負したい。いい意味で海外産と比べずに、自分だけの香りを出せれば」と、清水さんは意気込む。

香りを引き出す「天日乾燥」

清水さんのバニラは「長さ」と「実の詰まり」が特徴だ。

国際基準を大きく上回るほどに成長
国際基準を大きく上回るほどに成長

バニラの国際基準のAグレードは14cm以上だが、清水さんのバニラは平均で18cmを超え、長いものでは25cmくらいにもなる。(国際基準は複数あり)

「果樹の技術で間引く作業がある。それをしっかり適切な時期にするのが大事。長さや太さを取りたいときはなるビーンズの数を制限して、できるだけ生育の良いものだけ置いていくのが大事」と清水さんは話す。

香りを引き出すために「天日乾燥」をする
香りを引き出すために「天日乾燥」をする

収穫した実は手づくりのドームで天日乾燥させ、香りを引き出す。

乾燥が進むとしわが出てくる。

乾燥が進むとしわが出てくる
乾燥が進むとしわが出てくる

バニラは硬い実からしなやかで柔らかさを持ったビーンズに変わっていくという「天然のスパイス」だ。

「根気がいる作業で、少しでも間違うといいものにならないので、栽培より100倍難しい作業」と、清水さんは加工の難しさを語る。

取引先と直接やり取り、要望を栽培に生かす

清水さんのバニラビーンズは、輸入品にはない質の良さにひかれた全国のシェフの目に留まり、取り引き先は約100にのぼる。

松尾さんは清水さんのバニラの最初の顧客だ
松尾さんは清水さんのバニラの最初の顧客だ

清水さんのバニラを最初に取り入れたのは、雲仙市でアイスソルベと菓子店を営む松尾利博さん(51)だ。3年前のことだった。

使い道や要望を聞いて、栽培や加工に生かす
使い道や要望を聞いて、栽培や加工に生かす

清水さんは、それぞれの使い道や要望を栽培や加工に生かせたらと、取り引き先と直接会話をして販売している。

松尾さんの店「アール サンク ファミーユ」
松尾さんの店「アール サンク ファミーユ」

菓子店の松尾さんは「香りとか水分量を個人個人に合わせてこまめに変えてきてくれる。水分量がほしいなどもリクエストに応じて調整してくれる。普通はそういうことができない」と、清水さんの対応を評価する。

清水さんが育てたバニラを使った「アイスソルベ」
清水さんが育てたバニラを使った「アイスソルベ」

清水さんが育てたバニラをミルクにたっぷり入れてできた「ヤマトバニラ」のアイスソルベ。

鼻の中をすーっとバニラの香りが突き抜けていく。ミルクの甘さもあるが、バニラの香りもあってさっぱりとした甘さに感じられるアイスだ。

清水さんが試食することに
清水さんが試食することに

農園で、松尾さんが試食させてくれた。

「めちゃくちゃうれしい。おいしいし、この緑がこんなになるんだ」と、感慨深げだ。

出会った人に清水さんのバニラビーンズを勧めている
出会った人に清水さんのバニラビーンズを勧めている

松尾さんはケーキも含めて、長いことバニラビーンズを使っていなかったと話す。「高価だが地元の長崎の人が作っているのでこれは使うしかないと思った。全国のパティシエにも使ってもらいたい」と話し、出会った人にはよく勧めているそうだ。

県産バニラで地域を盛り上げたい

国内で使われているバニラのほとんどは、マダガスカルなどからの輸入品だ。国内のバニラ農家は沖縄で増えているものの、全国で20戸しかなく、そのうち出荷まで至っているのは5戸ほどだという。

参入障壁が高い
参入障壁が高い

「参入障壁が高い。苗の値段も高い。申請や資金集めが大変だった」と、清水さんは振り返る。

一方で、加工したバニラビーンズは2年ほど保管できて軽いため、長崎からの送料も少なくすみ、魅力的な作物だと話す。

加工したバニラビーンズはメリットが多い
加工したバニラビーンズはメリットが多い
 

栽培している半分が、収穫できる株になってきていると話す清水さん。「まだ100~120kg程度なので、500kg~1tレベルを目指す。そこまでできてくると価格を下げられる。地域のケーキ屋など今は単価が高くて使えないが、使ってもらえるように寄り添っていき、地域を盛り上げられるかなと」と展望を語る。

「県産バニラを全国へ」清水さんの挑戦は続く
「県産バニラを全国へ」清水さんの挑戦は続く

国産だからこそできる使う人の声を聞いたバニラづくり。「県産バニラを全国に届けたい」と、清水さんの挑戦は続く。

(テレビ長崎)

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テレビ長崎
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