「夜景を眺めながらおいしいケーキを味わってほしい」と、長崎の稲佐山展望台に洋菓子店がオープンした。繊細なアートのようなケーキと、オーナーシェフの地元愛に密着した。
夜景とケーキのコラボレーション
世界新三大夜景に選ばれている長崎の夜景。
街を一望できる稲佐山には、2024年度、40万人以上が訪れた。
展望デッキから1階に降りると出迎えてくれるのが、2025年11月にオープンした洋菓子店「菓子屋 無大(むだい)」。夜景を見た後に思わず立ち寄ってしまいたくなるおしゃれな佇まいだ。
シックな店舗に引き寄せられてショーケースを覗くと、色とりどりのケーキに目を奪われる。美しい彩りに繊細な飾りつけ、高級感を感じさせるケーキ。常に15種類が並んでいる。
午後5時の開店と同時に行列ができる。その約9割が観光客だ。
訪れた観光客は「全体的にきれいだったので迷った。甘すぎずぺろりと食べられる感じなので、もう1個買おうかな」と笑顔で話す。
地元愛にあふれるオーナー
オーナーシェフは、長崎市出身の江原翔太さん(26)。
「唯一無二の体験価値」を掲げ、世界新三大夜景が見られる場所でアート性のあるケーキを食べられる場所にしたいと、店のオープンへの思いを語る。
江原さんが生まれたのは長崎市稲佐町、稲佐山のふもとだ。パティシエの父・保史さんと同じ道を歩むことを決意し、2023年に展望台のそばで店を始めた。
施設の管理者が変わったことで一度閉店したが、「稲佐山で店を続けたい」と、展望台の中で再びオープンすることを決めた。
江原さんは「“世界新三大夜景”や”日本三大夜景”に選ばれている場所なのに、お店が何もないのはさみしい。夜景を見て幸せな気持ちになって、さらにアート性のあるケーキを食べてもっと幸せになって帰ってほしい」と語る。
麗しいケーキ「白(ハク)」
ショーケースに江原さんこだわりのケーキが並ぶ中で、ほとんどの人が買うケーキがある。
白鳥をイメージした「白(ハク)」だ。
つやのあるムースの上で、今にも羽ばたきそうに大きく翼を広げる白鳥。翼は一枚ずつチョコレートで作られている。
中にはイチゴのソース。外側のバニラの上品な香りとともに甘酸っぱさが口の中に広がっていく。
翼を作る工程を見せてもらうと、溶いたチョコレートをスプーンで薄く広げ、ハケでさらに薄くのばしていく。このとき少しでもミリ数がズレたら翼は折れてしまう。感覚が大切だという。
より繊細な芸術性を追及し、チョコレートは光で照らすと透けるほどの薄さに仕上げた。
「白(ハク)」は江原さんにとって特別な思い入れがあるケーキだ。2022年、江原さんは県の洋菓子コンテストで白鳥をモチーフにしたケーキで優勝したのだ。
その後、全国大会のために改良を重ね、特別賞を獲得した作品が「白(ハク)」なのだ。
江原さん、「名前が太く羽ばたくで『翔太』なので、名前を体現したようなケーキを作りたかった。空は真っ白なイメージがあったのでそれに合わせて白鳥が羽ばたくようなイメージ。この先の人生で変わることない原点」と、「白(ハク)」に対する強い思いを語った。
「白(ハク)」は、その見た目の美しさからも、来店したほとんどの人が購入する店の看板商品となっている。
韓国からの観光客は「写真で見たときに、これ一体どうやって作るの?と思った。実際見たら細かい表現がすごい」と、実物のケーキに感激している様子だった。
江原さんは「せっかく『長崎』という自然も人もいい街で生まれ育ったので、少しでも貢献できたら」と、稲佐山での再出発に思いを寄せる。
「無限大の可能性を追求し、無名のところから稲佐山と共に有名になりたい」。江原さんは、生まれ育ったこの場所で、これからも唯一無二のケーキを作り続ける。
【菓子屋 無大】
◼︎住所:長崎県長崎市大浜町364 稲佐山公園
◼︎営業時間 月・火・木 17〜21時
金・土・日 11〜21時
◼︎定休日:毎週水曜
★2026年4月、新作ケーキを販売予定★
(テレビ長崎)
