「戦後80年 ーつなぐー」。BBTではこの1年、富山大空襲の記憶を語り継ぐ親子3世代の取り組みを伝えてきました。
20年あまりにわたって語り部を続けてきた佐藤進さん。先月90歳で亡くなりました。
長い年月が経ち、風化しつつある戦争の記憶をどうつないでいくか…親子3世代の取り組みから考えます。
今年8月。戦後80年の節目に富山大空襲の犠牲者への鎮魂や平和への願いを込め打ち上げられた白い花火。
富山市に住む西田亜希代さんと七虹さんはその花火を特別な思いで見つめていました。
*富山大空襲を語り継ぐ会 西田亜希代さん(56)
「戦後80年の8月1日花火大会を迎えられたということで、ご家族に体験したことを話していただけたらいいなと思いながらきょうは花火を見させていただいていました」
亜希代さんは90歳の父・佐藤進さんに付き添い、富山大空襲の語り部の活動をそばで支えてきました。
講演の様子はカメラで記録するようにしています。
*西田亜希代さん
「これは個人で私が父の講座を記録していて、体調が不安定なのでどの講座が最後になるかわからないということもあって」
*富山大空襲を語り継ぐ会 佐藤進さん(90)
「周りに無数の焼夷弾が落ちてきた。直撃は受けなかったが私たちは焼け死んでいても仕方なかった」
亜希代さんは大空襲を知る父を持つ2世だからこそできることがあると、おととしの4月、語り継ぐ会に入会しました。
*西田亜希代さん
「富山大空襲を語り継ぐ会にも体験者が加入されていて、いつかお話を伺いたいなと思っていたらお亡くなりになられたということもありましたし。一人一人の記憶を継承という形で拾い集めてつなげていきたいと思っています。本当に今しかないと思う」
富山国際大学付属高校に通う亜希代さんの長女・七虹さん。この夏に美術部に入り、ある活動を始めました。
*富山大空襲を語り継ぐ会 長女 西田七虹さん
「若い世代がアクションを起こすことによって同じ世代、私たちより下の世代、大人の世代にも影響を与えられるんじゃないかと思い企画した」
七虹さんが提案したのは、大空襲の体験者から話を聞き、その様子を絵で表現するというものです。
*佐藤進さん
「当時は8月1日というのは台風が来ていたのか非常に暑い日でした」
戦争を直接知らない若い世代が体験者の言葉をもとに記憶を絵で伝えていく。未来に継承するための取り組みです。
*西田七虹さん
「もし絵が完成すれば写真のように永久的に残る」「昔の出来事に色がつくというかそんな遠い存在ではないということを示していけるのではないか」
そのわずか3カ月後。進さんは入院中に体調が急変し亡くなりました。90歳でした。
*西田亜希代さん
「今回の入院中に退院したらまた語り部の活動をしたいと私たちに伝えてくれていて、痰をとる装置をつけてもらうと本人も楽だと医者から言われたが、その場合は声が出せなくなると説明を受けたときにそれはダメなんだと言って。声が出なくなると語り部の活動ができなくなるからそれはしたくないと。とにかく声が出る限り、語り部の活動をしたいと最期まで意欲的だった」
2001年から語り部を始めた進さんがこれまでに行った講演は287回。のべ2万2331人に大空襲の体験を直接伝えました。
その体験を引き継いだ亜希代さんと七虹さんは、最後まで語り部を全うしようとした進さんの思いを胸に活動を続けます。
*西田亜希代さん
「父の場合は230回を超える回数で2万人以上に聞いていただいたようにいままで行ってきた活動をこれからもコツコツと地道に続けて行きたいと思っていますし、人の力で伝え続けることが私たちに課せられている」
*西田七虹さん
「おじいちゃんも最期まで誰かに伝えたいという思いがあったので、私も後に続いて命ある限りおじいちゃんの体験またはほかの体験者の話を含めて一人でも多くの人に伝えられたら」
いま大空襲や被爆、戦争に関する講演は、戦争を直接知らない2世へと世代交代が行われています。
広島で被爆した父親の体験を語り継いでいる県被爆者協議会の小島貴雄会長もその一人です。
*県被爆者協議会 小島貴雄会長
「佐藤さんとは一緒に講話をする機会がありました。強い意志を持って空襲の悲惨さを訴えておられた。私の父は一昨年亡くなりましたけれども、80代の時は語り部をしていた。残された私たちは実際に体験した人たちのつらい思い、自分の身を削った思いをより広く多くの人達に伝えることが残されたものの使命だと思っている」
戦争体験者の思いは、2世、3世、次の世代に託されています。
亜希代さんが記録した映像に進さんの最後の講演の様子が収められていました。
*佐藤進さん
「私は出前講座でいつも話をしているが、皆さんに訴えたいと思うが、戦争は絶対にしてはいけませんね。だけど皆さんは今すぐ世界を平和にすることはできません。自分たちの周りの小さな平和を考えてみましょう。小さな思いやりがやがては世界の平和につながっていくんです」
戦争の記憶を未来にどうつないでいくか、亜希代さんと七虹さんは一緒に取り組んでくれる仲間を募っています。
「戦後80年 -つなぐ-」。この1年、戦争体験者の声を記録し伝えてきました。
私たちにできることはなにか、これからも考え続けていきます。