「この子の親ですって胸張って言える」。
そんな当たり前のようで、決して当たり前ではない願いを込めて作られたドキュメンタリー映画が、2025年に公開された。
親である、あるいは親になりたいと願う同性カップル4組の日常を1年半にわたって追った映画「ふたりのまま」。
家族とは何か。最も身近なコミュニティの在り方を、性的マイノリティの視点から社会に問いかける。
当事者の視点で描く「私たちの家族」
映画を制作した長村さと子監督は、自身も同性のパートナーと子どもの3人家族だ。
10年以上前から、子どもがいたり、子どもを望んだりする性的マイノリティの人たちを支援する活動を続けてきた。
長村さと子監督:
この社会の中で見えていないだけで、私たちのような家族はすでにたくさんいる。その存在をいないことにされないよう、この瞬間の家族の姿を残したい。
長村監督は、そんな思いで制作を始めたと語る。
映画に登場する家族は、皆自身のことを公にはカミングアウトしていない。
それでもカメラの前では、日常生活を飾らずに見せている。
そして、普段考えている思いを話す。
「血の繋がりは重要視していない。一緒に住んでいる人が家族。」
「普通っていうのは誰が決めるの?」
「可視化」への一歩と社会の壁
一方で、出演者たちが顔を明かすのは映画館での上映に限られている。
この点について長村監督は、社会の現状に対する葛藤を口にする。
長村さと子監督:
DVD化したり配信したりしてほしいという声はあります。でも、映ってくださった家族たちに何かないと言い切れるかと言われたら、私はそういう社会ではまだないと思っています。
多くの人に知ってもらいたいという強い思いと、それができない状況。そのジレンマの中で、今回の映画は大きな意味を持つと監督は考えている。
長村さと子監督
顔を隠して、どうやってその人たちを可視化するのかをいつも考えてきました。今回は初めて、顔が見えて生活が見えるという映画になった。それは大きな一歩かなと思っています。
「家族とは」制度の外側から問いかける
映画では、法制度の問題も指摘される。
自民党など4党が提出した「特定生殖補助医療法案」では、第三者からの精子・卵子提供による不妊治療を法律婚の男女に限定する内容が示された。
同性カップルや事実婚のカップルが対象外となるこの法案は、当事者などからの強い反発を受け、廃案となった。
もし成立していれば、同性カップルが子どもを持つ道がさらに狭まる可能性があった。
長村さと子監督:
制度の外側にいる家族たちを通して、家族とは一体何なのか、社会に問い直したい。
「何が違うか」ではなく「同じ」だと実感してもらう映画
この映画の仙台での上映を働きかけたのは、宮城県内に住む大塚のぞみさんだ。
大塚さんは16年前から同性のパートナーと暮らし、同性婚を認めているカナダで法律上の結婚をしている。
大塚のぞみさん:
ドキュメンタリーとしても素晴らしい。性的マイノリティについて知るきっかけとして、映画は非常に入りやすい。
近年、「性的少数者の存在は珍しくない」と認識されるようになってきたと感じる一方、「まだまだ言いづらい」状況もあるという。だからこそ、この映画に期待を寄せる。
大塚のぞみさん:
ただ「いますよ」と主張するより、どういう生活をして、どういう考えを持っているかを丁寧に追っているので理解しやすい。結局、何か違いを見せるのではなくて、一緒なんだっていうことを実感する映画だと思います。
性的マイノリティの家族を知るきっかけに
仙台市に住むうみさんも、映画に期待する一人だ。
小さな子供と同性のパートナーがいるうみさんは、この映画が多くの人にとって「知る」きっかけになってほしいと願っている。
うみさん:
このような家族の形があることを、そもそも多くの人が知らない。
今までの世の中では見えてこなかった、同性カップルの子育てについて見ていただけると嬉しい。
うみさんのパートナー、コウさんも、同性カップルの子育てについて知るきっかけになってほしいと話す。
コウさん:
実際に同性カップルに育てられている子供も出てくる。それをどう感じるか、見てほしい。

長村監督は、支援活動の中で心ない誹謗中傷を受けることも少なくないと明かす。
その上で、「映画を通して、そうした言葉が誰に向かって何を投げているのか、その先にいる生身の人間や家族の存在を、リアリティを持って感じてほしい」と訴える。
映画「ふたりのまま」は、仙台市のパートナーシップ制度が始まって1年というタイミングで上映された。
上映後に長村監督が舞台挨拶とトークを行った回は、予約で満席になるなど、注目度の高さがうかがえた。
家族とは何か。この映画は、そんな普遍的な問いを改めて見つめ直すきっかけになるはずだ。
