妊娠前から健康を考える 男女の「プレコンセプションケア」

「プレコンセプションケア」という言葉を聞いたことがあるだろうか。
WHO(世界保健機関)は「プレコンセプションケア」を「妊娠前の女性やカップルに医学的、行動学的、社会的な保健介入を行うこと」と、定義している。

この定義だけを聞くと少し難しく感じるが、つまり、妊娠を考える“前”から日々の健康状態や生活習慣を見直し、改善していこうという考え方だ。

いま、この「プレコンセプションケア」が注目されている。

教育現場での取り組み 若い世代が学ぶ意義

中学校で講演する坂総合病院の堀籠清香さん
中学校で講演する坂総合病院の堀籠清香さん
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宮城県利府町の中学校で行われた「性に関する保健講話」。保健師や助産師を講師に迎え、3年生約160人が性や妊娠、出産への理解を深めた。

坂総合病院助産師 堀籠清香さん:
性については敏感な内容だけに、誰でもオープンにできる、聞ける内容ではないと思う。それだけに自分で調べがちだが、皆さんの周りには誤った情報・過度な情報も多いことを理解していてほしい。

講話の冒頭では、プレコンセプションケアについて生徒に伝えた。

坂総合病院助産師 堀籠清香さん:
皆さんのように若い男女が将来のライフプランを考えながら、日々の生活のなかで健康に向かいあうこと。将来、結婚・妊娠を希望しない人でも、性や妊娠・出産について科学的に正しい知識を持つことがとても大事で、それは自分や相手を守るためにも必要なこと。

性や妊娠・出産について正しく知ること。これこそが、プレコンセプションケアの根本となる考えだ。

専門医が語る 医療現場から見たプレコンセプションケア

東北大学病院 富田芙弥医師
東北大学病院 富田芙弥医師

東北大学病院の富田芙弥医師は、「プレコンセプションケア外来」の医師として、妊娠にリスクや不安がある人の相談や指導を行っている。

富田医師は、プレコンセプションケアについて、「妊娠していないけれども、妊娠した後のことを考えて、自身もしくはパートナーの健康に気を付けていきましょう、という概念」と話す。

若い世代の健康を高めることで、より質の高い生活の実現や、より健全な妊娠・出産のチャンスを増やすことを目的に掲げるプレコンセプションケア。

東北大学病院産科 富田芙弥医師:
妊娠前の自身の生活習慣などが妊娠した後の母親と赤ちゃんの予後に影響するということが知られている。

富田医師は、妊娠前の健康状態が、妊娠・出産時の母親や生まれてくる赤ちゃんの健康状態に影響を与えるとして、妊娠する前から自身の体の状態を知り、健康を維持することが重要だと話す。

いまプレコンセプションケアが求められる背景

プレコンセプションケアが推奨される背景のひとつとして、出産の高年齢化が挙げられる。

一般的に高齢出産と呼ばれる35歳以上で出産した人の割合は、1995年では1割程度だったのに対し、ここ数年で3割まで増加した。出産年齢が上がると、妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病などといった合併症のリスクが高まるとされている。

また、年齢のほかにも生活習慣や食習慣に問題があったり、持病があったりすると、早産や流産、低出生体重児などのリスクが通常より高くなるとされている。

こういったリスクを少しでも減らすため、若い頃から自身の健康に気を配るようにするのが、プレコンセプションケアである。

東北大学病院産科 富田芙弥医師:
妊娠してから、妊娠前にできることがあったということに気づく人が多い。改善できるリスクはできるだけ減らした状態で妊娠・出産を迎えてもらえることが、産婦人科医にとっても、これから妊娠・出産を迎える人にとっても幸せなことだと思う。

チェックシートで見える健康状態と備え

チェックはスマートフォンなどからも行える
チェックはスマートフォンなどからも行える

国立成育医療研究センターは、実際に何をしたらよいか確認できるチェックシートを公開している。

女性は適正体重の維持や生活習慣病のチェック、妊娠してからでは打てない事前のワクチン接種など21項目。
男性は過度な喫煙や飲酒など自身の健康に関わるものから、パートナーと一緒に行う健康管理など12項目。

男性向けのチェック項目も
男性向けのチェック項目も

このチェックシートは、国立成育医療研究センターのホームページに掲載されている。
まずはこうしたところから、プレコンセプションケアの考え方や自分の生活・健康状態などを確認してみるのもいいだろう。

街の声に見る認知の現状

仙台の街で、子どもがいる人に話を聞くと、母親はプレコンセプションケアという言葉は知らずとも、「体重のキープと、風疹はワクチンを打った方が良いと言われ、気にしていた」と、チェックシートに記載された項目で意識していた項目は多かったという。一方で、父親は飲酒や喫煙については意識していたものの「あまり意識していなかった。大事だと思う」と話した。

また、子供が予定日よりも1カ月早く生まれたという別の母親は、プレコンセプションケアを知らなかったとして「生まれた後で異常がなかったので良かったが、もし何かがあったら、あの時こうしておけば良かった、と後悔していたと思う」と話した。

日本でプレコンセプションケアについて本格的な取り組みが始まったのは10年ほど前。厚生労働省の調査によると、認知度はまだ1割ほどにとどまっている。
仙台の街の若者も、ほとんどがプレコンセプションケアを知らなかったが、その意義の重要性を感じたようだった。

女性(大学生・20歳):
知らなかった。妊娠に直面して焦るより、授業などをしてもらった方が考えられると思う。
男性(20歳・大学生):
妊娠は女性のものと思わず、男性が気をつける意識は大事だと思う。

富田医師はチェックシートも活用し、性別・年齢問わず実践してほしいと話す。

東北大学病院産科 富田芙弥医師:
妊娠・出産となると、普段よりもさらに健康に気を付けなければいけないことが出てくる。
妊娠・出産にかかわらず、自分自身の健康を考えるきっかけを、このプレコンセプションケアという言葉から意識してもらえるとありがたいと思う。

プレコンセプションケアが示す“未来への準備”

プレコンセプションケアとは、妊娠を望むかどうかや男性・女性の性差に関わらず、自らの健康と向き合い、将来の選択肢を広げるための考え方である。

晩産化や生活習慣の影響が明らかになる中、正しい知識を持ち、日々の健康管理を行うことが、健全な妊娠・出産だけでなく、より良い人生の基盤にもつながっていく。

仙台放送
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