国内最高峰のラグビー「リーグワン」のチーム、静岡ブルーレヴズに、高校を卒業後すぐ飛び込んだ"異色のルーキー"が誕生した。「大学生」と「プロのラガーマン」の二刀流に挑む18歳に密着した。
大学生のプロリーガー誕生
2025年、静岡のプロラグビーチーム「静岡ブルーレヴズ」に、日本ラグビー界では異例の「大学生プロリーガー」が誕生した。
本山佳龍(けいたつ)選手、18歳。長崎南山高校出身の高卒ルーキーだ。
身長188cm、体重118kgと体格に恵まれた本山選手は、スクラムの最前線で相手と対峙する要のポジション「プロップ」の選手として活躍が期待されている。
静岡ブルーレヴズは昨シーズン、クラブ史上初のプレーオフに進出した。押し負けず、トライを奪えるセットプレーが強みのチームだ。
本山選手は「スクラムが魅力的なチームで、自分の強みであるハードキャリーを出したい」と、意気込みを見せる。
相撲部屋の勧誘を断って…
ハードキャリーとは、フィジカル、つまり、筋力やパワーなど、コンタクトプレーや激しい動きをこなすための身体能力をいかしてボールを前に運ぶ力だ。
単に体が大きいだけでなく、体幹の強さや相手との接触の仕方も重要だ。小学2年生からラグビーを始めた本山選手は、恵まれた体格、身体能力を発揮し、中学時代は県選抜で全国準優勝に貢献した。
ラグビーと並行して小学4年から始めた相撲では、全国大会で上位進出。相撲部屋から勧誘を受けたこともあったが、高校進学時にラグビー1本にしぼった。
高校ではフィジカルに磨きをかけ、全国大会に出場。世代別の日本代表にも選ばれた才能がスカウトの目にとまり「自分が強くなれる、自分が成長できる練習環境」だと、静岡への入団を決めた。
練習に学業に大忙し!
「大学生」と「プロのラガーマン」の二刀流である本山選手。入学したのは、チームの練習拠点に近い静岡産業大学だ。
ほとんどの高校生が大学のラグビー部で身体を作ってプロの世界に飛び込むのに対し、本山選手が選んだのは高校を創業してすぐのプロ契約。しかも「大学生とプロの二刀流」というラグビー界では例を見ない挑戦だ。
1日のスケジュールは、朝の練習、ウエイトを終えて、9時から大学へ。長い時は午後3時まで学校で過ごし、その後練習に参加している。
忙しい日々を過ごす本山選手だが、大学で学びながら練習することは「スポーツ科学部で体の仕組みや動きが学べるところが、プロ選手として役に立つ部分がある」と感じている。
さらに、地元長崎でラグビーを教えたいという夢を持ち、その目標に向けて教員免許取得も視野に入れている。
大学の同級生は「プロとして自覚を持ってやっている中で、ちゃんと勉強も教職も取りにいっていて尊敬できるところがいっぱいある。リーグ戦が開幕したらみんなで見に行きたい」と、エールを送る。
大切にしているのは「覚悟」の言葉
周囲からの期待の一方、高卒の選手がすぐに国内最高峰の練習についていけるほどプロの世界は甘くはない。
「自分はまだ高校卒業して間もないので、ほかの選手とのフィジカルの差だったり、経験値の差だったりが毎回の練習で身に染みる」と、厳しいプロの世界を痛感する本山選手。
そんな本山選手が大切にしているのが「覚悟」という言葉だ。前例のない挑戦を選んだ本山選手は、高校時代の恩師・久保田監督から「覚悟を持って臨むように」と、静岡へ送り出されていた。
今も大学生活の事など定期的にやり取りを続ける久保田監督は、最近の本山選手の体格を見て「シャープになったし、下半身もがっちりしてきた」と、成長を感じている。
本山選手は「卒業してからも話を聞いてくれるので感謝している」と話し、「壁にぶつかっても腐らずに地道に徐々にやっていく部分での覚悟、プロでやるマインドも覚悟だと自分は思う」と、「覚悟」という言葉を常に大切に、厳しい練習に日々励んでいる。
1日1日を大切にして貢献できる自分を見つけたい
「ジャパンラグビーリーグワン」の2025-26シーズンは、12月13日に開幕。静岡ブルーレヴズの第1節が14日に迫るなか、本山選手は5日に行われたプレシーズンマッチに初出場し、10分間の実戦デビューを果たした。先輩たちは飛躍を目指す本山選手を温かく見守っている。
静岡ブルーレヴズのフッカー、作田駿介選手(23)は「佳龍(けいたつ)はまだ成長段階。ディテールの細かいところ、フィードバックできるところは毎回練習の後に伝えるようにしている」と、本山選手の成長をサポートしている。
先輩たちの指導を受け、本山選手は今、自主練習に余念がない。スクラムの際は足の置き方や幅など細かい部分にも意識を張りめぐらせ、ボールを運ぶときは持ち方や体重移動にこだわっている。
「チームに貢献できる部分は自分の中ではまだないので、そこを今年見つけられるように、いいシーズン1年目を迎えられるように、1日1日を大切にしていきたい」と、厳しい練習にもひたむきに取り組む覚悟だ。
目標はプロになる前から変わらず「日本代表100キャップ」。そこに向けて今季のリーグワンでまずは1キャップ(試合)出場の目標を立てた。
大学でスポーツ科学を学びながらプロチームで日々厳しい練習をこなす本山選手。先輩からのアドバイスを取り入れ、高校時代の恩師のエールを胸に、リーグワンの舞台に挑む。
(テレビ長崎)
