長崎県佐世保市で小学6年生が同級生の女子児童を殺害した事件から21年。犠牲になった児童の兄が講演し、当時の心境や、被害者のきょうだいへの支援の必要性について訴えた。

当時の状況が頭に焼きついて…

被害者の兄である御手洗(みたらい)さんは現在、36歳になった。

御手洗さんが登壇した講演会
御手洗さんが登壇した講演会
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11月24日、「犯罪被害者週間」を前に講演会が行われた。御手洗さんは事件当日の様子や、自身の心境について語った。

講演する御手洗さん
講演する御手洗さん

御手洗さん(被害者の兄):
実はきのう事件があったんじゃないかというぐらいパッと思い浮かんじゃう。当時の状況が頭に焼き付いてしまっている。

2004年事件が発生した小学校
2004年事件が発生した小学校

2004年6月1日、佐世保市の小学校の校舎内で当時6年生だった妹の怜美(さとみ)さんが同級生にカッターナイフで首を切られ、死亡した。トラブルの発端は「インターネット上の書き込みを巡るもの」だった。

妹が間違いなく殺された

御手洗さんは当時、中学3年生だった。

2004年事件が発生した小学校
2004年事件が発生した小学校

昼休み後、5時間目の授業が急遽自習へと変わり、担任からスクールカウンセラー室に呼び出された。校長、中学1~3年の時の担任、部活の顧問など6人の先生が集まっていて、校長からニュースの記事が印刷された紙を渡されたことで事件を知った。

当時の心境を語る御手洗さん
当時の心境を語る御手洗さん

御手洗さん:
書かれている内容を読み、妹が間違いなく殺されたということと、どこで起きたのか全て分かった。でもそれに対して、自分が怒っているのか悲しんでいるのか感情が全く分からなくなってしまって、先が全く見えない状況に置かれていた。

出た言葉は「これをやったのは誰ですか」という一言だった。それを聞いて泣き出す先生がいて「先生たちを頼れない、どう接したらいいか分からない…」という感情になった。

誰にも心を開けない…

事件翌日の夕方、警察と話をして戻ってきた父の顔を見たとき、「この人は妹の後を追って死ぬかもしれない」と思った。それほどまでに父は憔悴しきっていた。

感情や悩みを相談できない状況になった
感情や悩みを相談できない状況になった

御手洗さんは、「これ以上父を困らせないように父の指示に従おう、笑顔で過ごそう」と誓ったという。

泣いて心配してくれる人には反射的に「大丈夫」と言ったし、うまくご飯が食べられなくても、家事をしてくれた父の会社の人たちがいなくなってから、誰もいない布団の中で泣いた。

学校は、どんな顔をして行けばいいか分からなかったが、周囲の人たちが全く変わらない対応をしてくれたことで抵抗なく行くことができた。

しかし、学校に戻ってしまったことで、自分の異常を知らせることができなかったと語る。

誰も気づかないうちに心が限界に…
誰も気づかないうちに心が限界に…

スクールカウンセラーと話す機会や、日常の体調管理のチェックはなかった。事件を告げられたカウンセラー室はフラッシュバックするから行けなかったのだ。

御手洗さんは、「いま思えば、カウンセリングの場所を考えてほしかった」と話す。

周囲の人も、自分でも気づかない間に、徐々に心が限界に達した。

自分の中でおかしなことが起きている

体に異常が出始めたのは、高校生になってからだった。

高校入学から2か月、突然不調が現れた
高校入学から2か月、突然不調が現れた

高校に入学して2か月後、学校に行こうとした時、突如、足が動かなくなるほどの心身の不調が出た。

自分の中でおかしなことが起きている。しかし、言語化できない。

教室に行けなくなって保健室に通うようになった。それでも学校に行ったのは、父に心配させたくないと思ったからだ。

出席日数が足りないことで学校から父の元へ連絡が行った。そこで初めて父は、息子が教室に行けなくなっていることを知った。

何を伝えたらいいのか分からない
何を伝えたらいいのか分からない

父から言われたのは「学校に行けているし、誰かに話せているなら、お前は大丈夫だと思っていた」ということだった。

カウンセリングを勧められ、カウンセラーから「どうぞお話しください」と言われる。しかし何を伝えたらいいか分からなかった。

「これは意味があるのか、効果がないかも」と思った。

自分の口で事件について話せるようになったのは、事件から1年後だった。

表面化した心身の不調と支援の必要性

事件の後、自分の感情や悩みを誰にも相談できない状態に陥った御手洗さん。

遺族のきょうだいへのケア
遺族のきょうだいへのケア

自身の経験から、御手洗さんが求めているのは、遺族のきょうだいに対して日常生活が送れているかなどの細やかなケアだ。

心の悩みを相談したり、付き添いも
心の悩みを相談したり、付き添いも

講演を主催した長崎犯罪被害者支援センターでは、電話や面接での相談のほか、病院や警察などにも付き添う支援をしている。

御手洗さん「その子の異常に気付ける体制を」
御手洗さん「その子の異常に気付ける体制を」

御手洗さんは事件を振り返りながら「学校がその子の異常に気づけるような体制がもっと早く構築できていればよかったのかな」と話す。「目が届きにくい犯罪被害者のきょうだいに対して、本人が“大丈夫”と言っていても、気がけてほしい」と訴えた。

長崎犯罪被害者支援センター
095-820-4977
月~金 9:30~17:00
(土日祝、年末年始を除く)

(テレビ長崎)

テレビ長崎
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