長崎県の雲仙・普賢岳の噴火活動の再開から35年。噴火活動でできた「平成新山」の一般向け登山の可能性を探るため、関係者が山頂に登った。30年以上立ち入りが制限されてきた山への登山は、今後、観光資源になり得るのだろうか。
島原市長が平成新山に登る
2025年11月17日、長崎県雲仙市の雲仙・仁田峠(にたとうげ)に、九州大学の研究者、島原半島3市の警察や自治体の関係者など94人が集まった。
年に2回行われている、溶岩ドームの状態を確認するための「防災視察登山」だ。
平成新山は、普段は立入禁止となっている警戒区域内にある。そこに入り調査を行う。
この日は、島原市の古川隆三郎市長が7年ぶりに視察に参加した。「平成新山」の一般向けの登山解禁を求める声が上がる中、その可能性を探るためだ。
「そろそろ一般の人も入れるのではという意見はあるが、物見遊山的に登るのはどうなのか。しっかり現場を見させていただきたい」と語った。
198年ぶりの噴火から35年
雲仙・普賢岳が198年ぶりに噴火したのは、1990年11月17日、今から35年前のことだ。
火口から白い噴煙が立ち上り、活動は徐々に活発化していった。
1991年5月、火口からマグマが次々に押し出されて積み重なった「溶岩ドーム」が出現。火砕流、土石流が発生し甚大な被害をもたらした。
普賢岳の噴火活動は1994年以降激減し、火山噴火予知連絡会は1995年5月25日に「雲仙・普賢岳のマグマ供給と噴火活動はほぼ停止状態にある」とのコメントを発表、約4年半に及んだ噴火活動は終息した。
噴火活動によって形成された溶岩ドームは「平成新山」と名付けられた。標高1483m、現在は山頂に鋭く突き出た岩の隙間から、時折暖かい噴気が立ち上っている。
険しく危険な場所だらけ
仁田峠から登山道を1時間半ほどかけて登った先にある、「立ち入り禁止」の柵。
平成新山へと続く入り口には鍵がかかり、立ち入りが制限されている。溶岩ドームの崩落のおそれがあることなどから、調査や観測機器のメンテナンスなどを除いては中に入ることはできない。
柵の先は岩だらけで、整備された道はない。岩に手を掛けて斜面を横断しながら、徐々に標高を上げていく。
両手両足を使って登るが、大きな岩がぐらつくこともあり、常に気が張った状態での登山となる。
山頂を目指す道中、手を掛けた岩の表面がぽろっと崩れることがあった。雨風にさらされ、噴気に触れた溶岩の中には、崩れやすくなっているものもある。
2020年には、溶岩ドームで小規模な崩落も確認されている。
活動活発な時期は700℃…現在は
この日、山頂部付近で測った噴気の温度は89.9℃だった。
観測を始めた1995年ごろには700℃以上あったが、ここ10年ほどは90℃前後で推移している。
九州大学地震火山観測研究センターの松島健教授は「噴気の温度について大きく変化はない。溶岩ドームの崩れの状況も前回、5月の調査と大きく変わっていない」と説明する。
暖かい気候のせいか、春に咲く「ミヤマキリシマ」が咲いていた。古川市長は「随分植栽が増えたと感じる。その結果、足場が固まって来ている部分もある」と、変化を感じていた。
しかし「岩石と岩石の間に非常に大きな落とし穴みたいな深い溝がある。万が一足を滑らせたら大変だ」と、危険性も指摘した。
「登りたい」需要とリスク
平成にできたばかりの「新しい山に登りたい」との声は国の内外から届き、将来的な観光利用も期待されている。
雲仙市の観光業関係者の市来勇人さんは「災害の時に被害に遭ったことを知って来られるヨーロッパの方も多く、『登ってみたい』という話にはなる。どうやって植生がよみがえってくるのかなど環境教育として世界の人達に知ってもらうことで、観光につながっていくのでは」と、期待を寄せる。
普賢岳に登山した人は、間近に見える平成新山を見ながら「一番高い山と聞くと、一番上に立ってみたいなと思う」としながらも、「岩ばかりだし、実際登れるようになったとしてもレベルはかなり高くなるのかな」と語った。
雲仙・普賢岳の火山活動は落ち着いているものの、不安定な溶岩ドームは崩落のおそれがあり、山頂に至るまでの道も岩場だらけでリスクと隣り合わせだ。一帯は国の天然記念物に指定されていることから、仮に一般向けに開放したとしても、整備を進める上でのハードルもある。
平成新山を視察した古川市長は、いかに安全性が担保できるか、歩道の整備のために平成新山に手を入れられるのか、課題を挙げた。
「自然の脅威と恵み」どう整合性を求めるのかが、これからの課題だ。
「雲仙が前例になれないか」
一般向けの登山解禁を求める声を受けて、島原半島3市などでつくる協議会は2025年、小委員会を立ち上げた。
国や県、そして専門家の知見も集めながら、古川市長は小委員会の意見を2025年度内にまとめる方針だ。
雲仙岳災害記念館の杉本伸一館長は「実際の現場を見て火山がどういうものかを皆さんに知っていただくのは貴重なこと。全国で例がないので雲仙が前例としてできないか」と、検討の必要性を述べた。
一方で、九州大学の清水洋名誉教授が指摘するのは「水蒸気爆発」と呼ばれる噴火のリスクだ。2014年、長野と岐阜の県境にある御嶽山の噴火で、63人が犠牲となった。
普賢岳の噴火活動当初から対応にあたってきた清水さんだからこそ「火山活動という意味で言うと静かだから、一般開放を考える時期に来ている。しかし、水蒸気爆発はなかなか前兆が出にくく、出ても直前。検知したときにどう登山者に迅速にアナウンスして避難していただくかというのは、一般開放するしないに関わらず考えていかないといけない問題」と、警鐘を鳴らす。
火山がもたらした恵みと災害の教訓をどう伝え続けるのか。噴火再開から35年、火山と共に生きるまちは新たな可能性を模索している。
(テレビ長崎)
