2025年度後期の NHK 朝ドラのモデルとなった小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)と妻・セツ。いったいどのような人物で、どのような暮らしぶりだったのだろうか。『小泉八雲とその妻セツ 古き良き「日本の面影」を世界に届けた夫婦の物語』(KADOKAWA)の著者である作家の青山誠さんが考察する。

文・写真=青山誠

趣味が合わない二人

ハーンは東京で暮らすようになってから毎年、夏の休暇は子供たちと一緒に静岡県の焼津で過ごすようになる。が、セツはこれに同行せず、東京で留守番するのが常だった。

焼津でハーンが常宿としたのは、海に隣接する魚屋2階の貸間。部屋からの海の景観が素晴らしく、彼のお気に入りだったが…。

魚の悪臭が漂ってくるし、おまけに部屋は不潔で蚤の住処になっている。セツは家の中を毎日隅々まで掃除して、塵ひとつ落ちていない状態にしないと落ち着かない。キレイ好きで潔癖症なところがある。衛生観念が欠落しているハーンはそれを見て、「ママサンノ掃除好キ、ソレ病気デス」と、呆れていたとか。そんなセツが不潔な貸間で過ごすのは無理だ。

明治29年(1896)に転居した東京・新宿区富久町の旧居跡
明治29年(1896)に転居した東京・新宿区富久町の旧居跡
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愛し合っている夫婦でも、趣味や好みがすべて一緒なわけではない。相入れないものはある。どちらかが譲歩して、相手にあわせるのが普通の夫婦なのかもしれないが…この夫婦は違った。我慢して相手に合うようなことはせず、また、自分の趣味に相手を付き合わせようという気もない。

夫や子供が焼津に行っている間、セツは東京に残って好きな歌舞伎や芝居の見物に明け暮れていたという。