2025年度後期の NHK 朝ドラのモデルとなった小泉八雲と妻・セツ。いったいどのような人物で、どのような暮らしぶりだったのだろうか。『小泉八雲とその妻セツ 古き良き「日本の面影」を世界に届けた夫婦の物語』(KADOKAWA)の著者である作家の青山誠さんが考察する。
文・写真=青山誠
東洋女性に憧れていた八雲
住み込み女中を探していた八雲は、以前に滞在した旅館の女将からセツを紹介された。
が、第一印象は最悪で、
「士族ノ娘ナイ、私ダマス!」
そう、女将に言って激怒。
セツの容姿が士族の娘には見えず、旅館の女中か農家の娘でも連れてきたのだと疑っている。
そのやり取りは、狭い家の中でセツにも聞こえていたはずだ。
八雲が思い描く“士族の娘”は、ピエル・ロティが長崎滞在の体験をもとに執筆した日記的小説『お菊さん』のヒロインのような、細く小柄で儚げな女性。
フランス海軍だったロティは任務で世界各地をめぐり、現地女性との恋愛体験をもとに数多くの作品を残している。ロティのファンだった八雲は、彼の作品にあるような東洋人女性との恋愛に憧れていた。
この頃に彼が住んでいたのは、松江の宍道湖畔の小さく狭い借家。そこで男女が一緒に暮らせば、やがて恋愛関係に発展…と期待していたとしてもおかしくない。
八雲の人物伝には、彼を潔癖で禁欲的に描いたものが多い。けれど、それは自分に自信がなくて恋愛に尻込みしているだけだったと見ることもできる。
