2025年度後期の NHK 朝ドラのモデルとなった小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)と妻・セツ。いったいどのような人物で、どのような暮らしぶりだったのだろうか。『小泉八雲とその妻セツ 古き良き「日本の面影」を世界に届けた夫婦の物語』(KADOKAWA)の著者である作家の青山誠さんが考察する。

文・写真=青山誠

明治の言語の壁は高かった

明治時代の庶民で、英語で10までの数字が言える者は稀だった。小学校下等(現在の小学校4年生)で学業を終えたセツもまた英語教育を受けておらず、英語スキルは庶民の平均レベルだったと思われる。

ハーンのほうは、それよりもかなりマシ。来日してから半年が過ぎ、街を出歩くのに必要な日本語の単語は覚えている。居留地の外で熱心にフィールドワークを続けたおかげだろうか、日本に長年住んでいる外国人よりも、円滑に日本人と意思の疎通ができるようになっていた。

ハーンが最初に滞在した富田旅館跡
ハーンが最初に滞在した富田旅館跡
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とはいえ、ちゃんとした日本語教育を受けていないから、助詞や接続詞は使えない。単語の選択もかなり変、松江に来た当初に泊まっていた旅館で、「ジゴク、ジゴク!」と、叫びながら風呂場から飛び出してきた。

旅館の女将や女中は、意味が分からす困惑してしまう。「湯が熱すぎるから、水を入れてくれ」と、言いたかったようなのだが…。こんな感じだから、英語が分からないセツと、細かい意思の疎通をするのは難しい。

コミュニケーション能力は抜群

そんな二人がどうやってお互いの理解を深めて、人生のパートナーになることができたのだろうか?