2025年度後期の NHK 朝ドラのモデルとなった小泉八雲と妻・セツ。いったいどのような人物で、どのような暮らしぶりだったのだろうか。『小泉八雲とその妻セツ 古き良き「日本の面影」を世界に届けた夫婦の物語』(KADOKAWA)の著者である作家の青山誠さんが考察する。

文・写真=青山誠

『怪談』はセツの語りから生まれた

小泉八雲の集大成である『怪談』が出版されて間もない頃のこと。その妻セツが、「私が女学校を卒業した学問のある女だったら、もっとパパさんの役に立てたでしょうに」と、自分を卑下して呟いたことがある。

その時、八雲は書棚を指差して、

「これは誰のおかげで生まれた本ですか?この本、みんなあなたのおかげで生まれました。世界で一番良きママさんです」

そう言って彼女を褒め称えた。

島根県の離島・隠岐諸島の海士町(あまちょう)にある八雲とセツの像。セツの像はここにしかない
島根県の離島・隠岐諸島の海士町(あまちょう)にある八雲とセツの像。セツの像はここにしかない
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セツは幽霊や妖怪の話、世に起こった怪奇な事件など、八雲が好みそうな話をたくさん仕入れては語って聞かせた。

八雲との日本語スキルでも理解できるよう言葉を選び、興味をそそるように脚色して物語を組み立て、口調を工夫する。また、怖い話をする時には部屋を暗くして蝋燭を立てるなどの演出も…。

セツが語る不思議な話に創作意欲をかきたてられて、多くの作品が生まれている。八雲にとって最良のストーリーテラーであり、彼の作家活動には欠かすことのできない存在になっていた。

ちなみに『怪談』の英語タイトルは“Kuwaidan”なのだが、これは出雲訛りをローマ字にしたものだという。セツは出雲弁と英語を混ぜ合わせて怖い話を語っていた。このタイトルは八雲のセツに対する感謝の印であり、共著者の証でもある。

不幸な境遇が才能に磨きをかける

セツのストーリーテラーの才能は、どのようにして培われたのか?