ハーンがそれに文句を言うことはない。違いを認め合い、お互いの自由を尊重する、今時のカップルみたいな感じ。それが夫婦円満の秘訣だろうか…。

ハーンの焼津滞在中、2人は書簡を頻繁にやり取りしていた。箋を埋め尽くす「ヘルン言葉」で近況を詳しく伝え合う。離れて暮らし自分の好きなことをやっていても、お互い相手のことが手にとるようにわかる。一緒に住んでいても会話がなく、相手のことにまったく興味がない家庭内離婚状態の夫婦よりは、よっぽど心が通じあっていた。

教育方針も異なる

子供たちへの接し方や教育に関しても二人の考えは違う。セツは子供に関して放任主義なところがある。ハーンはその真逆で教育熱心なお父さんだった。

日本の学校教育は暗記を重視し、生徒に教科書の内容を覚えさせることにばかり時間を費やしている。ハーンはそれに批判的。教科書を丸暗記しても考える力は養うことはできず、それどころか、子供の思考に悪影響を与えると危惧していた。だから、子供たちは学校には通わせずに自宅で教育した。

島根・松江市にある小泉八雲旧居。隣接する小泉八雲記念館では、ハーンの子供が使用した文机も公開している
島根・松江市にある小泉八雲旧居。隣接する小泉八雲記念館では、ハーンの子供が使用した文机も公開している

英語で書かれたアンデルセンの童話を教科書に使いながら、思考力と英語力を養ってゆく。しかし、何事もやり出すと熱中して度が過ぎてしまうのがハーンの悪い癖。つい時間を忘れて勉強時間がどんどん長くなる。この頃、セツも英語の勉強を再開したいとハーンに懇願するようになるが、その理由のひとつには嫉妬心があった。子供の教育にばかりに気を取られている夫の意識を、少しでもこちらに向けて欲しいという…いじらしい思いが透けて見えたりもする。

イギリス式尻叩きは効果なし!?

セツが嫉妬するほどに子供たちを溺愛するハーンだが、時には愛のムチを振るうこともあった。