福井県の美浜町と若狭町にまたがる三方五湖では、色付く紅葉の山々を眺めるクルーズを楽しむことができる。クルーズで通る湖と湖をつなぐ船がやっと通れる細さの水路には、人々の生活を守る“歴史秘話”があった。
2つの湖を50分かけてクルーズ
旅のスタートは、美浜町レイクセンターから。美浜町と若狭町にまたがる「三方五湖」の遊覧船が発着している。
船に乗り込み周囲に目を向けると…秋色に染まる、湖畔の山々。
クルーズでは、久々子湖から水月湖を50分ほどかけて巡る。湖面には羽を休める水鳥の姿も。冬にかけて、越冬する水鳥が増えていく。
まるでジャングルを分け入るような…
15分ほど久々子湖を進むと、岩壁が見えてきた。水月湖へと続く浦見川だ。
船内アナウンス：
「これから浦見川に入っていきます」
船が進んで行くと、川幅は7メートルほどに。船がギリギリ通れるくらいの狭さだ。
両側には間近に迫る切り立った岩肌、自然のまま生い茂る木々…まるで“ジャングルクルーズ”だ。
上空写真で見ると、裏見川の“細さ”が良く分かる。
大地震で川が岩にふさがれ洪水が発生
実は、この浦見川は、「川」といっても人工の水路。
時は江戸時代初期にさかのぼる。大地震が起きた際、湖から海へ流れ出る川が大きな岩でふさがってしまった。
大雨が降るたびに行き場を失った湖の水があふれ、近くの集落や田んぼは水没。人々は生活ができなくなったという。
そこで計画されたのが、水月湖と久々子湖をつなぐ新たな「水路」、現在の浦見川だったのだ。
難工事を乗り越え2年かけて水路を整備
工事を指揮したのは、小浜藩の役人・行方久兵衛。
機械などない時代に1000人以上の村人らとともに、固い岩盤と格闘の日々が続いた。難航する作業に村人の不満も募ったという。
それでも一大プロジェクトをまとめ上げ、2年をかけて327メートルの水路を完成させたのだ。
浦見川が完成すると、あふれていた水は引き、新しい田畑もたくさんできた。
「生倉（いくら）」や「成出（なるで）」など、いまも湖畔にある地名は「コメは“いくらでもなるで”」の意味でつけられたといわれている。
久兵衛ゆかりの神社
久兵衛は湖畔にある宇波西神社に毎日お参りし、工事の成功を祈ったそうだ。無事に浦見川の完成した後、久兵衛が送った手水鉢がいまも境内に置かれている。
須磨俊一宮司は「人々を救うことを心に決めて、難工事に当たられた行方さんは、困難に当たった時、神様に願い祈って向かっていったのでしょう」と話す。
神社には久兵衛をモチーフにした絵馬がある、久兵衛のイラストと共に記されているのは「初志貫徹」の文字だ。
他にはない地形と、美しい景色。そして5つの湖が育む豊かな文化。その影には、ひっそりと息づく“先人の大きな努力”があった。
