2000種類のボードゲームを1人で集めてカフェを開き、編集者としてドイツのマーケットでほぼ完売するゲームを手掛けた人がいる。偶然の出会い、コロナ渦での迷い、世界進出…。ボードゲームに情熱を注ぐ男性を追った。
壁を埋め尽くす2000種類の「ボード-ゲーム」
2025年5月、長崎市に「ボードゲーム」で遊べるカフェがオープンした。
遊べるボードゲームは2000種類!
店に入ると、まずは色とりどりのパッケージが並ぶショップコーナーがある。
その先に、ランチやドリンクが楽しめるカウンター席。奥には一面ボードゲームで埋め尽くされたプレイルームがある。壁という壁にボードゲームがずらりと並ぶ光景は圧巻だ。
この日は2人組の男子大学生が楽しんでいた。「初めて見るものでも、やっていれば何となく分かってくるから楽しい」と話す。
利用者は10~30代や、通な年配の常連客、居酒屋帰りに仲間で立ち寄る人など様々だ。
好きすぎて…2000種類を1人で集めた
店内のほぼすべてのボードゲームは、オーナーが1人で集めた。
ボードゲームカフェ「サニーバード」のオーナー・平(たいら)浩太さん(44)。
「仕事としてこれだけ集めろと言われてもたぶん嫌でしょうね。好きじゃなければここまで集められない」と、平さんは笑顔で話す。カフェにあるボードゲームは全て一度遊び、その楽しさを把握しているのだ。
「好き」が高じてカフェオーナーとなった。さらに、編集者としてボードゲームを手掛けるまでに趣味の領域を広げる、“ボードゲームの伝道師”だ。
しかし、子供の時からボードゲームが好きだったわけはない。魅力にはまったのは20代後半の頃だった。
塾の講師からカフェオーナーへ
実家の跡を継ぎ、自宅で塾講師として数学を教えていた頃、友人に誘われて興味本位でアナログゲームの集会に参加した。
そこで出会ったのが「カルカソンヌ」というドイツのボードゲームだった。都市や修道院、道や草原がまるで絵画のように緻密に描かれた美しいタイルに目を奪われた。
タイルを置いて地図を作っていくシンプルなルールだが、運と戦略次第で情勢がどんどん変化する。時には対戦相手との駆け引きで高得点を稼ぎ出し、考えながら、協力しながら進めていく奥深さに、気付けばどっぷりとのめり込んでいた。
「人が集まる場所を作りたい」という夢を持っていたことから、学習塾にカフェを併設していて、ボードゲームを少しづつ置くようになった。ボードゲームが増えすぎて手狭になったので、場所を変えて「ボードゲームカフェ」として再オープン。
それから7年が経ち「遊びたい人だけが集まるのではなく、誰でも気軽にボードゲームに触れられる場所にしたい」と、長崎市の中心部に移転。ショップやカフェだけの利用もでき、2000種類のボードゲームが楽しめる場所を作り上げた。
ボードゲームの魅力は「不自由さ」
平さんにボードゲームの魅力を聞くと「良い意味での不自由さ」だと話す。
端末を立ち上げるだけで、1人で遊べるオンラインゲームとは違い、ボードゲームは、まず対戦相手を探さないと始まらない。コマやカードを準備して、終われば片付けも必要だ。それを「不自由」と感じる人もいるだろう。
しかし、実際に手で触れることができるコマやパーツは、持っているだけで温かみや特別な価値を感じさせてくれる。さらに、向かい合った相手の表情から思考を読み合う「人」との駆け引きは、仮想空間では味わえない何よりの醍醐味だと、平さんは静かに熱く語った。
コロナ渦が転機…「ゲーム編集者」へ
2020年、コロナ渦でカフェや学習塾の継続が難しくなっていた。
そんな中、家にいながらできることはないかと、もともと興味を持っていた「ゲーム編集者」としての道を模索し始めた。
ゲームデザイナー、グラフィックデザイナーと交渉。出版社を立ち上げて、オリジナルのボードゲームを作り上げた。
「多くの人にもっとボードゲームで遊んでほしい」という思いで、現在までに手掛けたゲームは60種類ほど。中には、世界を代表するボードゲームデザイナー、ライナー・クニツィア氏と交渉して作り上げたゲームもあり、活躍の場は世界に広がっている。
2025年10月、約20万人が訪れるドイツの大規模なゲームマーケットに2作品を出品した。初めての挑戦だったが、用意した約400個のボードゲームがほぼ完売する人気ぶりだった。
ドイツは1つの文化としてボードゲームが根付いていて、一家に1台は必ずボードゲームがあるという。平さんは「日本もドイツのように、家族で同じ時間を共有できるボードゲームをもっともたくさん増やしていきたい」と、これからの夢を語ってくれた。
「人とうまくつきあう力=対人スキル」を養う
ここで、小学2年生の子供がいる記者が、平さんに個人的な質問を投げかけてみた。
記者:子どもの頭が良くなるボードゲームを教えてください。
すると平さんは「その質問、本当によく聞かれるんですよ」と笑った。
「頭が良くなるというより、対人スキルや社会性が身につくんじゃないかと思う」と語る平さん。
「例えば、負けた相手を見下すような態度を取り続けていると、誰も遊んでくれなくなる。すると、勝った時の立ち振る舞いや、周りへの配慮を自然と学べる」。
「相手が何を考えているのかを探り、それに対して自分がどう動けば勝利するかを考えることは、相手の気持ちを考える力、つまり“人とうまくつきあう力”を養うきっかけになる。子どもの頃ボードゲームをやっていたかそうでないかで、大人になったときに全然違ってくるんじゃないかと思っている」と話してくれた。
中学生と小学生の子供を育てる平さんは、一緒にボードゲームで遊ぶという。父親目線の的確なアドバイスをもらえた。
いま、日本のボードゲームがアツい!
2025年10月、世界最高峰のボードゲーム賞「ドイツ年間ゲーム大賞」を日本人デザイナーが初受賞し、全国的に話題となった。
大賞を受賞したのは、OKAZUbrand・林尚志さんの「ボムバスターズ」。プレイヤーが爆弾処理班となり、爆弾を解除するために行動する協力ゲームだ。
ボムバスターズのような、家族や仲間で協力するゲームが世界的に脚光を浴びる中、日本のボードゲームは「小さな箱にゲームの面白さが詰め込まれている」と人気があるという。ボムバスターズの大賞受賞で、日本のボードゲームはさらに注目を集めているのだ。
平さんは11月22、23日に千葉の幕張メッセで開催される国内最大級のアナログゲームの祭典「ゲームマーケット」への出品に向けて準備を進めている。目標は「日本のゲームを海外で有名にすること」だ。
塾の講師からカフェオーナー、そしてゲーム編集者になるまでに熱いボードゲーム愛を持つ平さん。目標を定め、スキルを活かし、人と協力して夢を達成する平さんの人生は、まさに目標に向かってゲームを進める「ボードゲーム」そのものだ。
ボードゲームカフェ&ショップ「サニーバード」
■営業時間:11:00~22:00
■定休日:なし
■住所:長崎市江戸町5-3浦川ビル1F
■電話:095-801-2477
(テレビ長崎)
