きょうは、「妻の首に鎖を付け拘束した夫らに有罪判決」について、FNN北京支局の河村忠徳記者に伝えてもらう。

去年「イット!」では、中国東部の農村で、人身売買の被害者だった女性が首に鎖を付けられ拘束されていた事件について報道した。中国では大きな注目を集めた事件で、4月7日には女性の夫などに有罪判決が出されたが、その量刑を巡って批判が出ている。まずは、事件について振り返りたい。

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事件が発覚したのは去年1月26日。当時、気温は0度だったにかかわらず、女性は扉もない古い小屋の中で、薄着の状態で発見された。

そして、驚くべきことに女性の首には、鎖が付けられ、小屋から出られないようになっていた。また、女性の歯はほとんど抜け落ちていたのだ。

当時の映像では、「寒くないですか?」などと声をかけられるものの、女性は会話すらできなかった。実は、この時、女性は精神障害の状態だったという。さらに、驚くべきことに、女性は8人の子どもを産んでいたのだ。

夫は、過去に「一人っ子政策」をとってきた中国にあって、貧しいながらも8人もの子供を育てる偉大な父親と評価されていた。「少子化の救世主」として、地元企業の広告にも使われるなどしていたのだった。

そんな中、鎖をつけられて拘束されている女性の動画がSNSにアップされ、それをキッカケに、事態は急展開。政府が介入した挙句、「人身売買事件」として、夫は監禁の疑いで逮捕されたのだ。

では、女性は、どういう経緯でこの夫と結婚させられたのか。この経緯は裁判で明らかにされたのだが、衝撃的なものだった。

実は、この女性は、これまでに3回も売られていたというのだ。1回目は1998年。当時、10代だった女性は、故郷の雲南省で誘拐され、2000キロほど離れた街に住む農家に、およそ10万円(5000元)で売られたという。

女性は、その後、農家から失踪。そして、別の街である夫婦に拾われ、工事現場で働く2人の男に、およそ6万円(3000元)で売られたとのこと。これが2回目の人身売買。そして、3回目に、現在の夫の父親が、およそ10万円(5000元)で男らから女性を買い、結婚できなかった息子の妻にしたというのだ。

中国全土が注目していたこの事件だが、今回、裁判所は女性の夫に対して、虐待や監禁の罪で懲役9年の判決を言い渡した。ただ、夫は人身売買の罪には問われなかったという。その他にも、女性を誘拐して人身売買に関わった男女5人が、懲役8年から13年の判決を言い渡されたのだった。

女性は、10代の頃に誘拐されて、人生をめちゃくちゃにされたにもかかわらず、判決が軽いのではないとの指摘もある。なぜなのか?実は、中国の刑法では、人身売買において「売り手」と「買い手」で最高刑が異なるのだ。売った側の最高刑は死刑で重くなっている。

一方で、買い手の最高刑は懲役3年と、売った側に比べて極めて軽くなっているのだ。しかも、最高刑が5年未満の場合は、5年の時効が過ぎてしまうと起訴できないため、この事件で女性を買った夫について、人身売買では罪を問うことができなかったのだ。

この事件も発生当初は衝撃を与えたが、今回も国内では大きく報じられているのか?ここが注目の「ウラどりポイント」。「制限される報道」。

今回の判決やその後の女性の様子などを詳しく伝えたのは、国営の新華社通信と中央テレビのニュース専門チャンネルだけで、かなり限定されている。これだけのニュースが報じられないのは、国民の不満が広がらないようにするためだとみられている。

実は、女性の夫に出された懲役9年という判決には、「量刑が軽すぎる」とSNS上で怒りや失望のコメントが次々にあがった。

つまり、こうした国民の声がネットなどで過熱してしまえば、その不満の矛先が中国政府に向いてしまう可能性がある。だから、報道を抑制的にしたのではないかとみられている。

一方で、報じられたニュースには、裁判長が自ら出演し、事件の重大性や判決の理由を丁寧に説明していていた。さらに、捜査当局や専門家らも、徹底した捜査が行われたことや量刑が適正であることを強調していたのだ。

ただでさえ、中国の法制度や人権には欧米などの厳しい視線があるため、中国としてはこうした問題にしっかり取り組み、法律が機能していることを内外にアピールする狙いもあるということだろう。

報道が制限されても不満の声が噴出するというのは、国民の怒りがいかに溜まっているかを表しているが、中国当局は報道をコントロールしつつ、今後も国民の意識に細心の注意を払っていくとみられる。

(「イット!」4月11日放送より)