「このコケ、踊ってるみたい」――そんな印象を抱いた瞬間から始まった創作の世界。秋田市を拠点に活動する若きアーティストは、写真で切り取った日常や自然の風景に、ほんの少しの想像力を加えて、やさしいイラストに仕上げていく。見慣れた景色が、ちょっと不思議でいとおしいものに変わる瞬間だ。
写真から始まった創作の旅
秋田市で開催されたグループ展『ななてん』。秋田公立美術大学の卒業生7人によるこの展示には、ガラス、木工、絵画など多彩なジャンルの作品が並んだ。
その中でひときわ異彩を放っていたのが、高山美紀さんの作品だ。
彼女が描くのは、カメラのファインダー越しに見えた風景を、メルヘンタッチで再構築したもう一つの世界。
高山さんは2018年に秋田公立美術大学を卒業後、地元の秋田・湯沢市でデザインの仕事に携わりながら、趣味としてカメラを手に取った。身近な自然や風景を撮影するうちに、ファインダー越しに見える植物たちの姿に物語を感じるようになり、それをイラストで表現するようになった。
「幼い頃に天井のシミが顔に見えたり、雲が食パンに見えたりするような感覚で、撮った風景も作品にしているような感じ」と語る高山さん。その感性は、日常の中に潜む小さなファンタジーを見つけ出す力に満ちている。
実家の果樹園から生まれた『足下の宴』

代表作の一つ『足下の宴』は、実家の果樹園で撮影したコケからインスピレーションを得た作品だ。
「静かな果樹園の中で、まるでコケたちが揺れながら踊っているかのように見えた」と語るそのイメージを、アクリル絵の具と色鉛筆で温かみのあるタッチに仕上げた。
「元が写真であり、植物とか自然のものであるので、あまり擬人化し過ぎてもすごくかけ離れてしまう。キャラクターになり過ぎないように表現することを意識している」と、高山さんは自然との距離感を大切にしている。
“しおり”に込められた背景と詩
高山さんの作品には、インスピレーションのもととなった写真とポエムが書かれた“しおり”が添えられている。
鑑賞者はそれを手に取りながら、作品の背景にある物語を感じることができる。
例えば『春待つ 布団に包まれて』と題した作品には、春の訪れを待つ草花たちが、産毛を生やしたパッチワークの布団に包まれて、まだ夢の中にいる様子を描いたポエムが添えられている。
――アスファルトが顔を出し 眠っていた草花たちも少しずつ目を覚ます頃 産毛を生やしたパッチワークの布団をかぶって まだもう少しだけ夢の中にいさせて(ポエム全文)
自然の息吹を、詩的な言葉でそっと包み込むような表現が印象的だ。
表現の幅を広げる創作活動
イラストだけにとどまらず、高山さんは日常の音をテーマにしたポスターや、ろうそくを染み込ませて加工した光に透ける写真集など、ジャンルを超えた創作にも挑戦している。
その柔軟な発想と感性が、2024年に『ななてん』のリーダー・津曲由美さんの目に留まり、グループ展への参加につながった。
「写真を使ったメンバーが今までいなかったので『一緒にどうですか?』と声をかけた。デザイン的な作品やイラスト的な作品もあり、幅が広がる感じ」と津曲さんは語る。
新たな環境で広がる創作の可能性
2025年、高山さんは湯沢市から秋田市へと拠点を移した。新しい環境の中で、日常の中にある感覚を作品に昇華させたいという意欲に満ちている。
「ことし制作した作品をアップデートしたものとか、別のパターンを作りたい。今は秋田市に住んでいるので、日常の中で感じたものとかを作品にしてみたい」と語る高山さん。
彼女のファインダーが捉える世界は、これからも静かに、しかし確実に広がっていくことだろう。
(秋田テレビ)
