林さんの部下たちは次第にKさんを頼るようになり、チーム全員で一から整備してきた仕事の処理手順も、Kさんによって最適化されていきました。気づけば「Kさんに任せれば大丈夫」という空気がチーム内に広がっていたのです。

林さんは、表向きは部下であるKさんを褒め、評価している振りはしていました。しかし、心の奥底では「このチームでの自分の存在感が薄くなっていないだろうか」というモヤモヤした気持ちを抱えることもありました。

林さんはKさんの一言にカッとなるが…(画像:イメージ)
林さんはKさんの一言にカッとなるが…(画像:イメージ)

あるとき、林さんのチームに、超大手企業のコンサルティング契約のチャンスが巡ってきました。林さんのチームがその企業へのプレゼンをすることになりましたが、突然Kさんが「僕が来月のプレゼンをやりましょうか?」と言ってきました。

その言葉を聞いた瞬間、林さんはカッとなり、「これは新参者の仕事ではなく、決裁権を持つリーダーがやるのが当然の大仕事だろう」と言いそうになりました。

しかし、その怒りをグッとこらえて、「気持ちはありがたいけど……」と断りかけた瞬間、(いや、待て。自分よりもKのプレゼンのほうが成功する確率が高いのであれば…)とも思いました。彼は、この葛藤に悩みはじめ、結局は「少し考えるから」と言って時間を置くことにしました。

優秀な部下の登場に揺らいだのは

林さんには、どのような心理的背景があるのでしょうか。

林さんは、新規部門のリーダーとして、部下と協力しながらチームを引っ張ってきた自負がありました。しかし、明らかに自分よりも優秀な部下の登場により自尊心(自分自身に対する肯定的な評価や価値観)が揺らぎはじめ、複雑な心境になっています。