今週は、トランプ大統領が27日に来日し、日銀が30日までの2日間、金融政策を決める会合を開く。市場関係者が注目する大きなイベントが相次ぐ。
“利上げのハードルは上がった”
高市首相は、21日の就任会見で「マクロ経済政策の最終的な責任は政府が持つものだと考えている」と述べ、金融政策は「日銀が政府と十分に連携を密にして意思疎通を図っていくことが何より大事だ」との認識を示した。2013年に政府と日銀がデフレ脱却と持続的な経済成長の実現に向けて表明した政策協定=アコードについては、「直ちに見直すことは考えていない」と言及した。
金融正常化に向け歩みを進めてきた日銀は、これまで、マイナス金利を解除して利上げを重ね、ETF=上場投資信託の市場への売却方針を決めるなど、出口戦略を実施してきた。
追加利上げに向けた経済環境が整いつつあるとして、早期利上げ観測に傾いていた市場では、金融緩和を志向するとされる高市政権の発足により、ハードルが上がったとの見立てが広がっている。
追加利上げは年明けへのずれ込みも
今回の日銀会合での利上げの可能性が、金融スワップ市場でどの程度織り込まれているかについて、東短リサーチなどが分析したところ、24日午後時点で11%にとどまった。
「日銀が政府と十分に意思疎通を図らないまま利上げするのは難しい」との見方が出ているほか、追加利上げの時期について、年明けにずれ込む可能性も取り沙汰されている。
高市首相は、24日の所信表明演説で、戦略的に財政出動を行っていく方針を示した。円相場では、高市氏の「積極財政」路線をめぐる思惑が、引き続き円の重荷になっている。日銀が利上げに慎重な姿勢を強めれば、一段と円安が進む可能性があり、物価の上昇につながっていくことで、高市首相が注力するとしている物価高対策と矛盾をきたす可能性がある。
債券市場の「高市トレード」は一服
こうしたなか、高市政権発足を前に弾みがついていた、債券市場での「高市トレード」は一服感が出ている。
国債増発による財政悪化の可能性が意識され、超長期債を中心に利回りの上昇が進んでいたが、このところ、落ち着きを見せる展開となっている。
自民党と日本維新の会の連立合意では、物価高対策で自民党が掲げた現金給付は「行わない」とし、財政負担の大きい食料品の消費税ゼロは引き続き「検討」となった。
市場で大きな焦点となっていた財務相のポストに財務省出身の片山さつき氏が就いたことで、バランスのとれた財政運営が行われるのではとの観測が、債券市場の動きに影響したとの指摘も出ている。
高市氏の自民党総裁選での勝利以降広がった、超長期債と中・長期債の利回り差は縮まっていく方向に向かい、傾きが急になる「スティーブ化」を見せていた利回り曲線は、ひとまず、「フラット化」の様相を示している。
トランプ氏の要求次第で財政拡張懸念も
日本の金融市場にとっては、27日~29日に予定されるトランプ大統領の来日も重要なイベントとなる。
関心が集まるのは、日米首脳会談を通じて、トランプ氏側から、防衛費積み増しや対米投資をめぐる要求があるかだ。

高市首相は、施政方針演説で、防衛費をGDP=国内総生産比で2%にする目標について、2025年度中に前倒しして措置を講じる方針を示した。首相は、こうした内容をアメリカ側に説明するとみられるが、トランプ氏からさらなる要求があれば、財政拡張懸念が再び市場を揺らす可能性がある。
日銀に先立って、アメリカのFRB=連邦準備制度理事会も、28日~29日に金融政策を決める会合を開くが、24日に発表された9月の消費者物価指数が予想を下回る伸びにとどまったことで、0.25%の利下げを決めるとの観測が一段と強まっている。
再び“5万円”試す展開か
日銀は政策金利を据え置き、FRBは利下げを決定するとの見通しが支配的になるなか、日米金利差の縮小は織り込み済みだとして、円買いドル売りの動きは限られるとの見方も出ているが、ドル高円安を繰り返し批判してきたトランプ大統領から、円安是正をめぐり、何らかの考え方が示された場合、円相場を動かす大きな材料になる。
今週は、日米両国で、最高値圏で推移する株高をけん引してきたハイテク関連企業の決算発表が相次ぐ。急ピッチの上昇に高値警戒感もくすぶるなか、日経平均株価は、再び5万円を試す展開も予想される。金融市場の動向に大きな関心が集まる週になる。
(フジテレビ解説副委員長 智田裕一)
