日本各地でクマによる襲撃が発生して死傷者が相次いでいる。
住民の生命をどう守るのか、大きな問題となるなか、多くの巨大なクマが生息するカナダで実際にクマに遭遇し、見事撃退した男性の話を聞いた。男性が使っていたのは銃ではなく、日本でも活用されている、クマ撃退スプレーだった。
100頭以上のクマに遭遇
カナダ中西部・サスカチュワン州で山林火災に対応する消防士をするかたわら、写真家として活動するカーティス・マトゥイシャンさん。
仕事やプライベートでこれまで100頭以上のクマに遭遇したというが、クマ撃退スプレーを使ったのは1回だけだという。2022年5月末に撮影していた際、クマが想定より近寄ったために使わざるを得なくなったのだ。

消防士という仕事柄、スプレーの使い方の訓練は受けているというマトゥイシャンさん。自らが撮影した約3分の動画は、マトゥイシャンさんが落ち着いた声で「おい、クマ」と後ずさりしながら声をかけている様子からはじまる。
―――この動画の当時の状況について教えて?
「私は写真家で森に住んでいるが、このあたりはクマが多く、頻繁に撮影に出かける。クマは通常、人のにおいがすると逃げていくが、この時は明らかに違っていた」

「このクマの写真を何枚かカメラで撮った後、こちらに向かって歩いてきたので、大声を出して自分を大きく見せるなどして怖がらせようとした。脇道にそれたにも関わらず、向かってきたので、消防士としての訓練を思い出し、スプレーを準備した」
急に接近したクマ「風を背に感じ続けることを意識」
「作戦を変更してゆっくりと後ずさりし、落ち着いて話しかけ、クマに私が脅威だと思わせないように努めた。フォーカスしたのは“風を背中に感じ続けること”。つまり風上にたち、スプレーを使う段階になったら自分の顔にかからないようにすることだ」

―――途中で木に登ったり降りたり、急に駆け寄ってきたりしたが?
「クマが木に登るのはよくあることで、怖くなった時にそういう行動を取る。クマは木に登ると安全だと感じる。私がさらに大きな声で叫んだが、それはクマをそのまま木を登り続けさせようとしたから。1~2歳くらいのクマで、好奇心が強かったようだ」

―――クマが意図してこちらに向かっているとわかったのは?
「クマは蛇行しながら近づいてきた。途中で横にそれたかと思ったら、こちらに向きを変え、私をまっすぐ見て唇を少しなめ、近づいてきた。実際に突進してきたわけではないが、かなり近くに来たのでスプレーをほんの少し、噴射した。するとクマの顔に命中し、クマは向きを変えた」

―――スプレーはどれくらい噴射できるもの?他に身を守る方法はあるの?
「我々が持っていたスプレーは8秒間、噴射できる。もし効果がなかったらクマが向きを変えるまで続ける予定だったが、幸いなことに、1秒以上は使わなかった」
「銃器を持ち歩く人もいるが、現地は国立公園の中なので所持できない。実は、スプレーが銃よりも効果的だという興味深い研究結果がある。銃を撃って的を外した場合、クマをさらに怒らせてしまうことになるという理論だ。また、クマの種類やその時の様子にもよっても対処法は異なる」