なぜクマは人を襲うのか

―――クマに襲われる要因は?
「私の理解では、クマとの遭遇や襲撃の多くは、クマが人に慣れているときに起こる。通常、クマは人間に対して本能的に恐怖心を抱いているが、現代の生活で人間も自然の中にも入りこんでいく中、慣れてきているように思う」

「特に、クマの生息域にゴミや食べ物を無防備に置いておくと、クマは人間を“食料源”と考えるようになる。こうした状況を回避するには、一般市民への教育が本当に必要だ。もちろん、野生動物との遭遇をゼロにすることはできないが、減らすためにできることはたくさんある」

クマは木から降り、駆けだした
クマは木から降り、駆けだした

―――クマを近づけさせないためには?
「もしグループで行動できるのであれば、襲撃の可能性ははるかに減る。また、野外でキャンプをするなら、ゴミをきちんと片付けて、においなどで周りに引き寄せるものがないことを確認することだ。
見通しの悪いところにさしかかる場合は『おーい、クマ!』などと声をあげるのはいつも効果的だ。鈴などは“音の抑止力”になるという話もあるが、(人の声でないと)逆にクマを誘引するという人もいる。とにかく“音をたてる”、“誘引するものを密封する”、“万一の計画を立てておく”ことだ」

クマ撃退スプレー用のホルスターで常時携行も

―――それでも遭遇してしまったら?
「大切なのは、スプレーをすぐに取り出せるようにしておくことだ。リュックの中に埋もれてしまっていたら、役に立たない。スプレーをぶらさげられるホルスターも売っている。私は山道をジョギングする時も、クマの生息地に入る時は必ず持って行く」

脇を走り、ヒヤリとする場面も
脇を走り、ヒヤリとする場面も

「そしてクマが突進してきたら、『膜をつくるように噴射』する。クマがその膜に突っ込んできたら襲うことをあきらめるかもしれない。それでも突進してきたら顔に直接噴霧をする」

「走らず、様子をみながら離れること」
「走らず、様子をみながら離れること」

「このスプレー缶なら25フィート(約7.6m)の距離まで届く。私が遭遇した時はうまくいったが、反省点があるとすれば、もう少し早く噴射すればよかったと思う。
車や家など避難できる場所がある場合は、そちらに避難するのが一番。走らず、クマの様子をみながら、別の方向に向かうようにすることだ」

「私たちだけではなく、クマの安全を守る最善の方法」

―――撃退スプレーはいくらぐらいするの?
「カナダでは1本約50ドル(日本円で約7600円)。安心のための保険と考えれば安いもの。
自然の中で過ごすのももっと楽しくなるし、万一の備えができる。使用期限があり、期限切れのものはスプレーの強さなどが低下し、噴射できる距離が短くなるおそれがある」

マトゥイシャンさん「将来の遭遇の抑止に役立つ」
マトゥイシャンさん「将来の遭遇の抑止に役立つ」

―――この動画を投稿して改めて思うことは?
「私が本当に伝えたいのは、撃退スプレーが私たち自身の安全を守るだけではなく、クマの安全も守る最善の方法だということだ。
ネット上では、スプレーを使うのは残酷だと考える人が多くいるが、実際にはクマの目を一時的にくらますもの。クマにとっては瞬間的にかなり痛いが、将来の遭遇を抑止するのに役立つ。
ぜひこのスプレーについて学び、入手して使い方をしっかり理解し、いつも携行することをお勧めしたい」
【写真・動画】cmatwishphoto(カーティス・マトゥイシャンさん)
【取材・執筆:FNNニューヨーク支局長 弓削いく子  取材:ハンター・ホイジュラット】

弓削いく子
弓削いく子

心身を整えるためにヨガをこよなく愛す。
Where there’s a will, there’s a way.
FNNニューヨーク支局長。ニューヨーク市生まれ。1993年フジテレビジョン入社、警視庁、横浜支局、警察庁、社会部デスクなど、駆け出しは社会部畑。2010年からはロサンゼルス支局長、国際取材部デスクを経て現職。