被害者はハルトさん同様に「自分が至らないから叱られるのは仕方がない」と叱責を受け入れていましたが、裁判所は「指導の名を借りた人格攻撃であり、就業環境を著しく害する違法行為」と認定しました。

そして、神戸市に対して国家賠償責任を認め、上司の行為がパワハラに該当すると明確に判断しました。ハルトさんのように、「自分に非がある」と思ってしまう人には叱られる要因も理解できているために、過度な叱責でも従順に受け入れ、納得してしまうリスクがあります。

当たり前のことがわからなくなる前に

業務指導は素直に聞き入れ、改善するべく努力は必要ですが、大声で怒鳴ることは適切ではありません。そうした当たり前のことがわからなくなってしまうのは、度重なる上司の感情的な言葉があるからです。指導の名を借りた人格否定の言動を繰り返される現状は、健全ではありません。

かつてハルトさんを評価し、適材適所で仕事を任せてくれた上司がいたことは、職場に貢献できる強みがあるという証です。辞める決断を急がず、まずは今の環境が正常かどうかを整理してみてください。

社内に相談できる相手がいれば、相談してみるのもよいでしょう。社内では改善が見込めないのであれば、総合労働相談センターなどに相談する方法もあります。

配置転換や改善措置で就労を継続できる場合もありますし、退職を選ぶとしても、自分を守る準備をした上で実行することもできます。自分が悪いと抱え込まず、自分の良さが生かせる仕事を、社内や社外で探すことをお勧めします。

『職場問題ハラスメントのトリセツ』(アルク)

村井真子
社会保険労務士、キャリアコンサルタント。経営学修士(MBA)。著作に『職場問題グレーゾーンのトリセツ』(アルク)、漫画原作に『御社のモメゴト それ社員に訴えられますよ?』(KADOKAWA)、監訳に『経営心理学 第2 版』(プロセス・コンサルテーション)ほか。

村井真子
村井真子

社会保険労務士、キャリアコンサルタント。家業である総合士業事務所で経験を積み、2014年、愛知県豊橋市にて独立開業。中小企業庁、労働局、年金事務所等での行政協力業務を経験。あいち産業振興機構外部専門家。地方中小企業の企業理念を人事育成に落とし込んだ人事評価制度の構築、組織設計が強み。現在の関与先160社超。移住・結婚とキャリアを掛け合わせた労働者のウェルビーイング追及をするとともに、労務に関する原稿執筆、企業研修講師、労務顧問として活動している。