被害者はハルトさん同様に「自分が至らないから叱られるのは仕方がない」と叱責を受け入れていましたが、裁判所は「指導の名を借りた人格攻撃であり、就業環境を著しく害する違法行為」と認定しました。
そして、神戸市に対して国家賠償責任を認め、上司の行為がパワハラに該当すると明確に判断しました。ハルトさんのように、「自分に非がある」と思ってしまう人には叱られる要因も理解できているために、過度な叱責でも従順に受け入れ、納得してしまうリスクがあります。
当たり前のことがわからなくなる前に
業務指導は素直に聞き入れ、改善するべく努力は必要ですが、大声で怒鳴ることは適切ではありません。そうした当たり前のことがわからなくなってしまうのは、度重なる上司の感情的な言葉があるからです。指導の名を借りた人格否定の言動を繰り返される現状は、健全ではありません。
かつてハルトさんを評価し、適材適所で仕事を任せてくれた上司がいたことは、職場に貢献できる強みがあるという証です。辞める決断を急がず、まずは今の環境が正常かどうかを整理してみてください。
社内に相談できる相手がいれば、相談してみるのもよいでしょう。社内では改善が見込めないのであれば、総合労働相談センターなどに相談する方法もあります。
配置転換や改善措置で就労を継続できる場合もありますし、退職を選ぶとしても、自分を守る準備をした上で実行することもできます。自分が悪いと抱え込まず、自分の良さが生かせる仕事を、社内や社外で探すことをお勧めします。

村井真子
社会保険労務士、キャリアコンサルタント。経営学修士(MBA)。著作に『職場問題グレーゾーンのトリセツ』(アルク)、漫画原作に『御社のモメゴト それ社員に訴えられますよ?』(KADOKAWA)、監訳に『経営心理学 第2 版』(プロセス・コンサルテーション)ほか。