有給休暇は働く人が持ち合わせている権利。

ただ、取得の申請をした際、会社から変更が求められることがあることを知っているだろうか。

働く上でさまざまな法律やルールがある。しかし、その法律やルールを知らないとトラブルにも気づくことができない。

こうしたトラブルを未然に防ぐための対処法を示した著書『「知らなかった」で損をしない、働く人の必携書「職場問題グレーゾーンのトリセツ」』(アルク)から一部抜粋・再編集して紹介する。

著者は社会保険労務士でキャリアコンサルタントの村井真子さん。本書では実際に相談されたものをベースに事例を取り上げている。

有休は会社によって変更されることも

有休を申請して「忙しいからダメ」と言われてしまったら、どうすればいいのでしょうか。

まず「有給休暇の時期は、会社によって変更される可能性がある」ことは知っておきたい知識です。

有給休暇の取得は労働者の当然の権利ですので、基本的には会社は拒むことができません。

ただし、「事業の正常な運営を妨げる場合」は、会社が取得日の変更を求めることができます。

時季指定権によって有休の変更が求められることもある(画像:イメージ)
時季指定権によって有休の変更が求められることもある(画像:イメージ)
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意外と知られていませんが、これを「時季指定権」といい、会社に対して配慮した仕組みになっています。

「時季指定権」は労働基準法第39条第5項で定められています。

「使用者は、前各項の規定による有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる」

例えば、業務の繁忙期で明らかに人手が要る場合や、直前で申請された場合に代わりのスタッフの手配ができないときは、「事業の正常な運営を妨げる」ということに当てはまる可能性が高いでしょう。

また、連続して長期に申請した場合や、同じ日に申請しているスタッフがいる場合も、会社の時季指定権の行使が合理的とみなされる場合があります。 

希望日を事前に伝えておくことが大事

それでも申請のたびに毎回「忙しいからその日はダメ」と言われてしまっては、実質的に取れるタイミングがないということになりますよね。

慢性的な人手不足の会社はこのような回答をするかもしれません。しかし、これは合理的判断とみなされず、「時季指定権の濫用」として労働基準法違反に問われます。 

また、会社が指定した有休の時期が、産休に入った後や退職日の後など労働義務がそもそもないようなタイミングであれば、これも労働基準法違反にあたります。

この場合、使用者(労働基準法における事業主や経営者等のこと)には6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられます。 

有給休暇を取得したいときは、希望の日付がわかったタイミングで、まずは申し出ましょう。

事前に申請を受けている場合は、会社としてもその日に取得させるために最大限の配慮をすることが求められています。

例えば、事前に取得申請を受けていたにもかかわらず、会社が直前に変更を求め、それに従わずに休んだ社員を懲戒したという裁判例もあります。

この裁判は会社に非があるとして、社員の訴えが通りました。このように、繁忙期であっても事前に伝えておけば会社はその時季に取得できるように配慮をする必要があるのです。

『「知らなかった」で損をしない、働く人の必携書「職場問題グレーゾーンのトリセツ」』(アルク)
『「知らなかった」で損をしない、働く人の必携書「職場問題グレーゾーンのトリセツ」』(アルク)

村井真子
社会保険労務士、キャリアコンサルタント。家業である総合士業事務所で経験を積み、2014年に愛知県豊橋市にて独立開業。中小企業庁、労働局、年金事務所等での行政協力業務を経験。あいち産業振興機構外部専門家。移住・結婚とキャリアを掛け合わせた労働者のウェルビーイング追求をするとともに、労務に関する原稿執筆、企業研修講師、労務顧問として活動している。

村井真子
村井真子

社会保険労務士、キャリアコンサルタント。家業である総合士業事務所で経験を積み、2014年、愛知県豊橋市にて独立開業。中小企業庁、労働局、年金事務所等での行政協力業務を経験。あいち産業振興機構外部専門家。地方中小企業の企業理念を人事育成に落とし込んだ人事評価制度の構築、組織設計が強み。現在の関与先160社超。移住・結婚とキャリアを掛け合わせた労働者のウェルビーイング追及をするとともに、労務に関する原稿執筆、企業研修講師、労務顧問として活動している。