男性の育児休業に関する規定が盛り込まれた育児・介護休業法が改正され、「産後パパ育休(出生時育児休業)制度」が創設された。

現在、女性だけでなく男性の育休も推奨されているが、社会・会社のルール、労働者が望むこと、と価値観が追いついていない部分もある。

育休の事例から「パタハラ」への対応とハラスメントが起きてしまう根本的な問題について、著書『「知らなかった」で損をしない、働く人の必携書「職場問題グレーゾーンのトリセツ」』(アルク)から一部抜粋・再編集して紹介する。

著者は社会保険労務士でキャリアコンサルタントの村井真子さん。本書では実際に相談されたものをベースに事例を取り上げている。

パタハラの典型例と原因

「妻が出産し、夫の私が育児休業を取得。『戦力にならないから辞めたら』と言われました」

男性が育児休業を取得しても、企業から「パタハラ」をされてしまったら、どうすればいいのでしょうか。

パタハラは「パタニティ・ハラスメント」の略です。

マタハラ(マタニティ・ハラスメント)と同様に、妊娠・出産・子育てなど、子どもに関することを原因として職場内で肉体的・精神的な嫌がらせをしたり、解雇や雇い止め、自主退職などの不当な処遇を与えることを指します。

典型例に次のようなものがあります。

(1)「大事なときだから稼ぐべき」など、上司の価値観で休暇が取得できない。
(2)「繁忙期にみんなに迷惑かけるの?」と、願い出ることを阻害される。パタハラの可能性もあるので、社内窓口へ相談しましょう。
(3)取得後にチームから外される。情報共有しないなど嫌がらせがある。
(4)取得社員に対し、「もう昇進はない、終わった人」などの噂が流される。

パタハラの原因には、上司自身が育休の取得経験がないという世代的な問題や、「アンコンシャス・バイアス」により「育児は女性がするもの」という思い込み、法律と社会・時代の変化にギャップがあることが考えられます。

「アンコンシャス・バイアス」とは、心理学の概念である「認知バイアス」の一つで、無意識の偏見や思い込みから偏ったモノの見方をしてしまうことです。

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このような状況を変えるべく、2021年に育児・介護休業法が改正されました。

この改正ではいくつかの大きな変化がありましたが、注目したいのはあらゆる規模の会社において、「男性育休を含む育児休業制度の通知・取得促進の義務化」が図られたことです。

つまり、自身または配偶者が妊娠したら育休が取得できること、制度の周知をすること、取得の意向を確認することが事業主の義務として定められたのです。

また、同法では会社のトップの育児休業に対するハラスメントへの方針の明確化、その周知・啓発に加え、育児休業を希望・取得したことについてハラスメントを防止するための措置を講じることも求めています。

その一つに苦情を含む窓口の設置があります。まずは窓口へ現状を伝え、相談しましょう。

「違うこと」がハラスメントの温床に

研修講師としてお声をかけていただくことが多く、最近の2大テーマが「ハラスメント」と「男性育休」です。特に男性育休は法改正によって、男性の育休取得状況を会社が公表することが義務づけられました。

しかし、男性が実際には育児休業を取得できない理由の一つは、働き方改革を数字上でだけ推し進めてしまっていることです。

例えば、職場内でのムダや余裕が許されなくなった結果、同僚の状況を細かく知る機会が少なくなりました。残業時間にも上限が課せられ、既にぎりぎりのところで働いている人たちにとって、育児休業でチームに欠員が出ることは大きな打撃です。

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育休を取れるはずの労働者も「自分のワークライフバランスのために同僚のワークライフバランスを犠牲にしている」と考えてしまいます。

実際にそう非難された人を見たこともあるとすれば、さらに取得をためらうこともあるでしょう。

保育や教職の仕事では、年度途中での育休取得や職場復帰を事実上認めないという事例を見聞きしたことがあります。

また、自分の子どもの行事のために欠席する教職員に対して、クレームを入れる保護者もいます。こうした行為は相手に対する無理解が引き起こしているといえます。

最近、D&I(ダイバーシティ・アンド・インクルージョン)ということの重要性がさまざまな面で語られるようになりました。

けれど、企業におけるインクルージョン(包含性)とは、所属する社員の属性が少ないほうが高まります。

みんなが同じ背景を持ち、同じような考え方であれば共感性が発揮され、「みんなが仲間」という感覚が育まれるからです。

一方で、多様な背景を持つ社員が増えてくる(=ダイバーシティが進む)と、この意識は育まれにくくなり、「違うこと」がハラスメントの温床になりやすくなります。

相手の立場や状況に目を向ける余裕を持つこと、思いやる気持ちを持つことがハラスメントの抑制につながります。

『「知らなかった」で損をしない、働く人の必携書「職場問題グレーゾーンのトリセツ」』(アルク)
『「知らなかった」で損をしない、働く人の必携書「職場問題グレーゾーンのトリセツ」』(アルク)

村井真子
社会保険労務士、キャリアコンサルタント。家業である総合士業事務所で経験を積み、2014年に愛知県豊橋市にて独立開業。中小企業庁、労働局、年金事務所等での行政協力業務を経験。あいち産業振興機構外部専門家。移住・結婚とキャリアを掛け合わせた労働者のウェルビーイング追求をするとともに、労務に関する原稿執筆、企業研修講師、労務顧問として活動している。

村井真子
村井真子

社会保険労務士、キャリアコンサルタント。家業である総合士業事務所で経験を積み、2014年、愛知県豊橋市にて独立開業。中小企業庁、労働局、年金事務所等での行政協力業務を経験。あいち産業振興機構外部専門家。地方中小企業の企業理念を人事育成に落とし込んだ人事評価制度の構築、組織設計が強み。現在の関与先160社超。移住・結婚とキャリアを掛け合わせた労働者のウェルビーイング追及をするとともに、労務に関する原稿執筆、企業研修講師、労務顧問として活動している。